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 ただ駆けた。


 髪を振り乱し、衣をひるがえして、少年の名をつけられた少女は、駆けた。


 陞葉と名付けられた、薔崋は駆けた。


 腰にいた護身用の刀の柄を無意識に握りしめる。



 どれだけ逃げても無駄だということは分かっていた。


自分がどんなに速く走ったところで、そんなもの、『彼ら』にしてみれば何の障害にも問題にもなりはしない。


 分かっているのに、なぜ自分はこんなにも必死になって逃げているのだろう。



「――久しぶりだな、賢姫けんき


「っ!!」


 ふいに頭上から降ってきた声に、薔崋は反射的に大きく飛びずさった。


 直後、薔崋を狙って鈍く光る刀身が降ってきた。


 殺気。


 ぞわりと全身が総毛立った。


 それは何年も忘れていた、感覚だった。


「な、なんで……っ」


 動きにくい。動けない。


 そう思って、薔崋は自嘲した。

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