7

青年は、


「けれど『貴女』は、もう子どもじゃない。そんな貴女をこのまま放っておくつもりはないんだ。とっとと連れ戻して来い、そう言われた」


陞葉の表情をまるで楽しんでいるように見つめてから、笑った。


「わかるだろ? たった八つでありながら書庫にある書を読破、吸収した、一族始まって以来の才媛と呼ばれた、貴女になら」


 陞葉は――かつて薔崋そうかと呼ばれた姫は、小さく呟く。


「……三人も男児を授かりながら、それでもまだ、利用する駒が足りないというのか……愚かな」


 その呟きを聞いているのかいないのか、青年は言った。


「これは、要請なんてなまやさしいものじゃない。命令だ。もちろん、来るだろ? 薔崋姫」


「……」



 幸せな毎日だった。


 血のつながらない母と父。


 貧しいながらも笑顔で生きる子どもたち。


 毎日、教わって、学んだ。


 生きるということ。笑うということ。


 家族ということ。幸せということ。



「……」



 失いたく、ない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る