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「……人違いでは? 私は見ての通り、男ですが」


 そう言ったが、その声には覇気が無い。相手を納得させる気など微塵も感じられない声だった。やはり、青年は笑って一蹴した。


「間違うわけないだろ? 一族があなたを預けた夫婦がどんなに小細工しようが、ムダだ」


「……」


 陞葉は、小さく息をのんだ。


「忍の一族は逃がさない。一時的に預けただけの自分たちの子を……特に、本家の姫を奪われるなんて、許さない」


「……ヒメ」


 ぽつりと、口のなかで呟いてみる。


 懐かしい響きだ、と、思った。


「大切に育てられるようにと、子どものできない夫婦に預けたのが間違いだった。災いした。自分の子のようにかわいがったところまでは良かったが、約束の一年が終わっても、彼らは姫を一族に渡そうとはしなかった」


 まるで物語を語るように話す青年の言葉に、陞葉はただ黙って耳をかたむけていた。


「ただひたすら、逃げて逃げて逃げ続け、七年も姫を手元においた」



 七年……。


 その年月は、長かったのか、それとも短かったのか。


 とても、短かった気がする。


「必死で抵抗するただの一般人の夫婦をおもしろがりながら見ていた本家も門下も、もう限界だ。その気になればいつでも取り返せた姫を取り返さなかったのは、単なる暇つぶしにすぎない」

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