5
石段を降りていくと、下の方にぽつりと立っている人影を見つけた。
ゆっくりと降りてくる陞葉に気づいているのかいないのか、こちらを振り返ることはない。
その人は、茶色い髪を後ろ頭の高い位置でひとつに結い上げていた。
何本もの青色の濃淡を寄り合わせた、その独特な結いひもに気づいた瞬間、陞葉はわずかに眉をひそめた。
「……なにか、ご用ですか?」
声をかけると、その青年はこちらに背を向けたまま「ああ」と応えた。
「……あんたが、陞葉か?」
「そうですが」
その言葉を待っていたかのように、青年はゆっくりとこちらを振り返る。
「そうか。……って、ことは」
口の端をあげて、笑った。
「あなたは、玄国(げんこく)で最も強いと謳われる忍の一族、『修蒼(しゅうそう)』の本家の第一姫……」
「……」
陞葉はわずか、足を後ろへひいた。
「七年前に邸を出られたまま行方不明だった、修崔薔崋(しゅうさい そうか)姫だな」
彼の口からその名前がこぼれ落ちた瞬間、陞葉は表情を曇らせた。
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