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少女は石段を駆け上がった。
そこにはいつものように、子どもたちに囲まれている少年の姿があった。
少女は嬉しそうに笑って、駆け寄りながら大きく手をふる。
「おにいちゃーん! 陞葉おにいちゃーん」
まっすぐこちらへ駆けてくる見知った顔に、少年も気づいて微笑んだ。
「花見(はなみ)。いらっしゃい。遅かったですね」
「うんっ、あのね、あのねおにいちゃん」
何か言いたそうにしている花見に、陞葉は首をかしげた。
「どうしました?」
「んとねっ、おにいちゃんをね、呼んできてほしいって、下で待ってるの。おにいちゃんのお友達だよ」
任された役目をしっかり果たせたというように、花見は嬉しそうな笑顔を浮かべてそう言った。
「……私の?」
しかしその伝言を聞いた陞葉の顔からは笑みがかき消え、いぶかしむように顔をしかめたのち、次いで何か考え込むように黙り込む。
「……おにいちゃん?」
悩んでいる様子の陞葉を見て、笑顔だった花見は表情を強張らせて不安そうに彼をのぞき込む。
「……わかった」
しばらく黙っていた陞葉はやがて頷くと、
「伝えてくれてありがとう。皆、ごめんね、帰らなきゃいけなくなっちゃったみたいです。また今度」
えーっ、と不満がる子どもたちに「ごめんね」と手を振って、陞葉はゆっくりと石段を下りた。
駆け下りることはしなかった。
なぜなら、これから起こりえることは、きっと楽しいことではないはずだと、自分の中の危険信号が点滅していたから。
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