3

「陞葉おにいちゃん、おうた教えてねー」


「おにいちゃん、あとでおふねつくりましょー」


「はいはい。では順番にやりましょうね」


 楽しそうな子どもたちを連れて神社の階段を上っていく陞葉を、その視界の外からじっと見つめる目があった。


 茶色い髪の毛を、後ろ頭の高い位置でひとつにくくってまとめている、青年。


じっくりと何かを確かめるかのように、陞葉が視界から消えるまで瞬き一つせずその背中を見つめてから、


「……」


 ふと視線をはずすと、陞葉たちのあとを遅れて追うように駆けていく少女の姿が目に映る。


 青年はその少女に近づいた。


「なあ、ちょっと」


 声をかけると、少女は立ち止まって振り返り、キョトンとした表情をうかべた。警戒心などかけらもない顔だった。


「おまえも陞葉にいちゃんと遊ぶのか?」


 訊くと、少女はにっこりと微笑んで頷いた。


「うん! そうだよ」


「そっか、じゃあさ……悪いんだけど、陞葉にいちゃんを呼んできてくれないか? 俺、陞葉にいちゃんの友だちなんだけど」


 ニコリと敵意のない笑みを浮かべてそう言えば、少女はすぐに「うんっ」と返事をして石段を駆け上っていってくれた。


「……」


 青年は小さくため息をつく。



 これでいい。


 これが自分の、果たすべき役目なのだから。


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