第6話

4月から取りかかってる作品を、そろそろ完成させたかったから、部室があいてるのは有り難い。


先生に影響されて、抽象画を描いていた。

油絵で色彩にはより一層気を遣って。

あたしは赤が好きなので、色んな赤をキャンバスに乗せた。赤だけを使用しているのに、何色にも見える様に面白くしたい。一色を多彩に見せるのは難しく、手こずっている。



夏休みは絵を描くためにとにかく頑張ろう。

あたしの情熱はきっと夏の太陽よりも赤く燃えている。



「夏休みにわざわざ部活なんか行かないよ。ポッキーも休んだら?」


「うちも行かないや」


「夏休みゆっくり過ごしたい」


珍しく揃った1年生。先生に集まるように言われたからだ。同じ美術部員で、中村という男子が、やる気ない発言をしたのを聞いた。

それに続いて斉藤さんや上田さんも。

あたしのやる気に対して水を差すような言葉が嫌だ。


2年生だって全然集まらない。3年生は受験があるから引退。


ポッキー。自分以外の生徒はみんな、細谷先生をそんな風に呼んでいる。


細谷という名前の通り細身だからなのと、お菓子が好きな先生にちなんだあだ名らしいけど、その呼び方も気に入らなくて不快だ。


皆、細谷先生の凄さを理解できないから、いい加減な呼び方をするんだ。


先生は生徒に舐められることがあった。なのに、平気で居る。むしろ、堂々としている。



前にあった。確か5月の下旬に美術の授業があった時だ。


デッサンでペアになり相手の顔を描く授業だった。


アドバイスをもらおうと先生に声をかけた瞬間。

授業をまともに受けない不良の生徒が文句を言ってきた。


金髪でピアスをしている男子が絵なんてつまんねぇし、描いてて何が楽しいの? その格好もだせぇよって、先生を馬鹿にしていた。

先生はいつもジャージにエプロンで確かにあまり格好は良いものじゃないけど、絵を描くためにその姿なんだ。


更に不良が、一生懸命やってるあたしの絵も面白くないと言ってきた。


ゲラゲラと頭悪そうに笑って馬鹿にしてきた。



絵なんてくだらないと思わないでほしい。芸術の良さが分からなくてもいいから、馬鹿にしないで。あたしは唇をきゅっと結んで、この上ない怒りをこらえた。


自分の絵を、芸術が分からない人間にとやかく言われるのも嫌だけど、何よりあたしの尊敬する先生を馬鹿にしないでほしかった。


頑張って描いている人間の気持ちが分からないから勝手なことが言えるんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る