全員集合
4
―――――ガチャ、バタン!!!
台所で隼人くんと向かい合って椅子に腰掛けていると廊下の奥から荒々しい音が聞こえてきて驚いた。ビクリと肩を上げ、ガラス張りのドアの方へと視線を投げるあたしの向かいで。
「優ちん達帰ってきたのかな?」
あたしの作ったオムライスを笑顔で頬張りながら隼人くんが小首を傾げた。ちょんまげにしていた前髪がふにゃん、傾げた方向へと垂れる。それがまた何とも可愛い。
「え…でも帰りは夕方って言ってたけどなあ。」
頬杖をつきながらも自然とふにゃり、表情が緩む。あー癒し、何て可愛い男の子。もうその小首を傾げた姿もきょとんとした表情も何から何まで癒しっす。そんな事を思っていると。
――――――――ガシャン!!
ガラスが割れるんじゃないかと思うほどの勢いで優と翼がまず部屋の中へと飛び込んできた。その後を追うようにダラダラと現れた空は何故かあたしを見つめ「っち」舌打ち。なんなんすか。
「隼人!!」
昨日ぶりの眩しい金髪があたしの目の前を横切り隼人くんに駆け寄る。翼は隼人くんに駆け寄るとあたしから引き離すように椅子から引っ張り自分の後ろに隠してる。
ああ。やっぱり翼も隼人くんの事情を知ってるんだ。でも何だかこれはこれでちょっとおかしくないか?まるであたしが今にも隼人くんを襲おうとしてたのを助けたみたいなね…
「隼人お前大丈夫なん?」
大慌てな翼よりも少しだけ落ち着いている様子の優が、肩で息をしながら翼の後ろの隼人くんを確認してる。覗き込むようにしながらも乱れたオレンジ色の髪をかきあげていた。
いったいどこから走ってきたんだろう。それに比べて兄貴の余裕な姿といったら。「やれやれー疲れたー」とか言ってますけどあなた全く疲れていませんよね?
たぶん隼人くんとあたしが鉢合わせる前にたどり着こうとしたのかな。
「う、うん!優ちんもつーちんもそーちんもおかえり。俺大丈夫だぜ?つうか、つーちん痛えよ!俺、愛愛のオムライス食ってたんだからさ」
「「「愛愛!??」」」
隼人くんの言葉に見事にハモった3人組がスーっと視線をあたしの方へと滑らせてくる。そうですあたしが愛愛です。
「そ!愛理だから愛愛。愛愛のオムライスまじうめえんだよ」
「お前…女大丈夫なのかよ?」
「いや?全然無理!でも愛愛はなんか平気みたいだ」
な?なんて言いながら可愛い笑顔であたしに同意を求めてくるから隼人くんにあたしも自分の事なのにおずおずと頭を縦に振る。
「ふーん。へーえ?お姉さんやるねー」
全く心のこもっていない言葉であたしを褒めるようにパッチンパッチン、ゆっくりすぎる拍手を送る空が空いていた椅子へと腰を落とし長い足を組んだ。
瞳が冷え切ったそれへと変わり、探るように見つめられ困る。なんか嫌だなあ、その言い方。
「隼人よく見てみろ!こいつ化け物だぞ?まじうるせーんだぞ!?っつかこいつ女じゃなかったとか?だから大丈夫なんじゃねえか?」
おい いい加減にしろよ翼。また首絞める事になるぞ。次はそのまま背負い投げだぞコラ。
失礼な事を言う翼に見せつけるように着ていた服の袖をぐいと捲し上げる「おーコワ」笑いながら両手をブラリ、頭上に上げ降参ポーズを取っていると見せかけて、頭上に上げた右手と左手はそれぞれぎゅっと拳が握られている。
近寄ればいつでもそれを振り落とせるという事か、っち。
「ほんまに愛理ちゃんは大丈夫なんか」
「愛愛は俺に大丈夫って言ってくれたし。変な事しねえし、だから俺なんかすげー安心できてさ。だから大丈夫みたいだ。」
にっこにっこ明るい笑顔を見せる隼人くんに優も空も翼も顔を見合わせている。
たしかにあの怖がり様は普通じゃなかったからね。この3人も今まで隼人くんのあれを見てきたからきっとびっくりしてるんだと思う。
「お前どんな技つかったんだよ。黒魔術か?催眠術か?」
未だ降参ポーズと見せかけたファインティングポーズを向ける翼はケラケラケラケラ小馬鹿にするように笑いながらも問いかける。そんな摩訶不思議な技使えるわけなかろう。あたしを何だと思ってるんだ。
「それか意外とすごいテク持ってて隼人を骨抜きにしちゃったとかねー やだやだ怖いわー。もしかして既に事後なの?さいっていー」
かと思えば空がヘラヘラと笑いながら卑猥すぎる言葉を投げてくる。
「黙れ金さん銀さん」
ズビシ、それぞれ人差し指を突き付け、鋭い声でたしなめてやると「いやーんこわーい」何て冗談っぽい悲鳴を上げながらな隼人くんを挟んで3人で抱き合ってやがる。
苦しい苦しいと悲鳴を上げる隼人くんなんてお構いなしにギュウギュウと。
「っつーかさあ、愛愛ってどーなのよ」
隼人くんをぎゅうぎゅうとサンドイッチしながらも空が「ねえ?」含みのある言い方で翼ににやにや笑いかけている。その表情を見て、嫌な予感がするなと自然と眉間に濃いシワが寄った。
聞いた翼も隼人くんをサンドイッチ状態にしながら「ああ確かに」笑いながら頭を縦に振り。
「愛愛ってアレだよな。あーいあいって歌のさ。」
「そうそう歌のねえ。あーいあい。」
「「おサールさーんだよー」」
ふっ。包丁ってどこにあったかな。
冷めた瞳をスーっと部屋の中彷徨わせる。見つけた包丁で視線を止めると「やめて愛理ちゃん!落ち着いて!」優がふらりと歩き出したあたしの肩を押さえてきた。止めるでない。この双子、一回痛い目合わせないと分からないんだからきっと。
「おい何愛愛いじめてんだよ!何がお猿さんだよ。愛愛はもっと可愛いし!」
隼人くんの言葉に双子がまた顔を見合わせてる。
何をするかと思えば隼人くんからパっ!同時に離れ、あたしに駆け寄ってくる双子。
「こいつのどこが可愛いんだよ!?百歩譲ってもそれはねえわ」
「まー千歩譲って女って認めてあげようかなあーってとこだな」
あたしの右肩に翼の手が左肩に空の手がポンっと乗せられ哀れんだ瞳でウンウンうなづかれる。うんうんじゃねえよ。しめるぞいい加減。
「可愛いとかはあたしも同意出来ないけども、でも猿では無いよ!しっかりした人間だよ!ついでに言えばれっきとした女だし!」
ついつい勢いで自分の胸をグワシ!!両手で掴んでアピールしてしまう。その瞬間――――。
『――――っ!!!!』
ここに居た男達の表情が一変した。
隼人くんは驚いたようにササっ、顔を背け、優に至っては目を見開いた後ぶわわっ、顔を真っ赤にさせた。かと思えば双子に至っては全く同時に「わっ!!」顔を両手で押さえ。
『可哀想に、何て小さい胸だ』
言うでは無いか。ごめん、あたしも掴んでびっくりした。
「お姉さん知ってる?豆乳飲むと大きくなるらしいよ」
「…もう沢山飲んだよ高校時代」
「そ、そうか。そしたら誰か男に揉んでもらえよ。でかくなるらしいぞ」
「揉んでもらう相手もいないよ」
『どんまい!』
ペシ、自分の額を叩き嘲笑う双子が可哀想に可哀想にと笑ってる。今回ばかりは言い返せないぜ。
「悪ふざけすんなや。愛理ちゃん困ってるやろ。愛理ちゃん…その、まああんまり気にすんなや?そんな胸がどうのこうのって…別に小さくたって」
「優ちん逆に傷えぐってるよ!」
「っ!ごめんっ」
「もういいんです別に…胸なんて一生…もういっそ男として生きればいいんでしょうかね」
「愛愛落ち着いて!」
「お姉さん妊娠すれば胸もでかくなるんじゃね?」
「おい、それででかくならなかったらどうすんだよ」
「もう終わりだろ女として」
「空ちょっと黙れや!」
胸の一件は数分後落ち着き、落ち着きと言うよりも敢えて皆その話題に触れようともしてこなくなった。どうあってもあたしの傷口をグリグリ抉る事となるからだろう。それはそれで酷い。
「ほ、ほら隼人、オムライス途中なんやろ?」
苦しい話題変換を口にした優さんに続き隼人くんも「お、おおっ!そそそそそうだったああ」演技どヘタに残っていたオムライスへとまたパクつく。
急ぎすぎてむせていらっしゃった。そんなに焦らなくていいんだよ?ゆっくり話題変換してくだされば。
そうして話題がオムライスへと移り。
「優ちん達も昼飯まだならオムライス作ってもらえば?」
隼人くんがケチャップを口の端っこにくっつけながらも提案した。
「そうやなあ。俺もオムライス食べたいー。」
「そ、そう?じゃあ作ろうか?」
「うん!」
「どっかの誰かさんに俺らの可愛い可愛い隼人が襲われるかと心配して昼飯食わずだったからな。早く作れよバカ女!」
おいおい翼の分は作るなんてまだ一言も。
「俺、卵はふわふわトロトロ好みだわあ。言っておくけど俺と翼は料理に関しては口うるせえよ?お姉さん頑張ってねー」
空まで、お前ら何様だ。
唇を尖らせ憤慨しながらも袖をしっかりと捲し上げ、コンロの火を着けフライパンを少々強く押し付ける。
何様だとか思いつつ、結局作っちゃう辺り甘いというより置いてもらった事を考えると何となく逆らえないんだよなあ。
「うまいうまい!料理うまいんやな愛理ちゃん」
出来上がった新しい3人分のオムライスを繁繁と見つめながらも優が先に手をつけた。美味いと本心で微笑む表情がやけに甘ったるい。声色まで何となく優しげだ。
「よかった」
「まあまあだな。70点くらいじゃね?ふわふわ感が甘いわ。もっとこうフライパンの使い方をこうすんだよこう。」
「そう言うなよ翼。これでも頑張ってたんだから褒めてやろうぜ?まあふわふわトロトロを期待した俺がバカだったんだ。」
「失礼な!ちょっとふわとろじゃないか!」
『えーどこがあ?』
「文句言うなら食うな」
ここら辺がと指さしたあたしに双子はそろってイヤイヤと頭を振って肩をすくめる。ここがふわとろじゃないか完璧に!全部ふわとろには出来ませんでしたけど、ちょっと崩れちゃった部分もありますけど。
「食ってやってんだからありがたく思えよ!」
「そうそう。食わないと残飯になっちゃうしなあ。優の家のごみを少しでも減らそうと思う俺らってなんて心が広いんだろーね」
「くそ、何てむかつく双子なんだ。もうちょっと人を褒める事が出来ないのかね」
「なら褒められるような事しろや」
「そういう事だな」
「きいいいいいいっ!!!!」
駄目だこの双子。せめて片方だけ小生意気なら何とかなりそうなものなのに、二人でタッグを組んだらどうしようもないな。罵詈雑言。
双子曰く残飯らしいオムライスを食べ終わった隼人くんはそんな様子をハラハラと見守っている。大丈夫だよ隼人くん。お姉さん負けない!
「つーちんとそーちんこんなだけど、本当は優しいとこもあるんだよ。口汚いとこはあるけど気にすんなよ?」
「大丈夫。あたし結構打たれ強いんだ」
「そっか、ならいいんだけど。まじ気にしないで愛愛はずっとここに居ていいんだからな」
――――――――――え?
至極真面目な表情でテーブルを叩く隼人くんがあたしに言い聞かせるように顔をずいと近づけて言う。その言葉に呆気に取られていると。
「いやいや何言ってんだお前は。いつからそんなに積極的になったんだよ」
翼はもぐもぐと噛んでいたオムライスを慌ててごっくんと飲み下し、持っていたスプーンの先を隼人くんに向けた。
「愛愛だけなんだよ。女で怖くないって思えたの。俺このままじゃ駄目だって分かってんだ。だから愛愛が居ればもしかしたら女が大丈夫になるかもしれねえじゃん」
「隼人、お前本気で言ってんの?」
いやいやそんな大袈裟な、手をぶんぶんと振り回すあたしに一瞥をくれて黙らせた空は今までふざけていた声色とは違う冷たい声で隼人くんを窘めた。
あの夜のことを思い出した。翼が人を殴り続けていた時もこんな目で見つめていたっけ。ごくん、冷たい声色と冷酷な瞳に生唾を飲み込む。何だこの雰囲気。
あたしに言い聞かせているわけじゃないのに驚いてついつい体が固まってしまった。優はチラリと空を視線で確認したけど、また何事も無かったようにオムライスに向き直ってしまった、あなた止めなくていいんですか?
翼も空の声色に少し驚いた様だけどゆっくり視線を隼人くんに向けて今は耳を傾けてる。
「本気じゃなかったら言ってねえって。俺がこんな事言ったことなかっただろ」
冷めた視線を向けられても全然怯えることなく涼しい顔で答える隼人くんはさっきまでの可愛い顔じゃなくちゃんと男の子の顔をしている。真剣そうにまたバシバシとテーブルを叩いた。
隼人くんの言葉の後、水を打ったようにしーんと台所が一旦静まり返る。さすがにこの沈黙はきつい。お兄さん達、お顔が怖いよ。
あんなに優しい優まで少し鋭い視線で空を睨みつけているし。翼に関してはそれを窘めるように視線を素早く優に滑らせていて。交錯し合う隼人くんと空の視線は未だ逸れない。
そんな場をーーーーーーーー。
「あ…ーの…」
沈黙に耐えられなくなったあたしがおずおずと挙手し、遮った。
四人の視線があたしに集まる。鋭いままに。
「あたしの事で仲悪くなるのはやめてもらいたい。あ…!ってこれは別にあたしのことで争わないでーみたいなのじゃなくて」
お前何言ってんだ、双子の視線が鋭く飛ぶ。うん、視線が痛いから今はふざけちゃいけなかったみたいだ。真面目に話そう。
落ち着け自分。あたしが一番年上なんだから。
「あのね 隼人くん。あたしは昨日遅かったから泊めてもらっただけなのさ。さっきも言ったけど優にお礼言ったら今日帰るつもりだったし。」
「で…でも俺は愛愛に居てもらいたいんだ。」
「ありがとう。でもみんなに迷惑かけられないから。隼人くんがいいならあたしの連絡先教えるからいつでも連絡してきてよ」
隼人くんが初めて心を開けたと言ってくれて嬉しかった。それに今は隼人くんに何があったとか聞けないけどいつか話してくれたら嬉しいと思ってる。
話を聞くぐらいならきっとあたしにも出来ると思う。良い言葉を言ってあげられるかどうかは分からないけど。
「お姉さんの本心は何なんだ」
空の冷たい視線があたしを射抜く。
ギシリ、背もたれに背を預けた音がする。あまりに冷たい視線だったため、ついつい逸らしそうになった。ただこんな時、妙な負けん気が働いて逸らしそうになった視線を慌てて相手に縫い止める。
「あたしの本心……」
誰も何も言わず静かにあたしを見つめてる。
だって空はあたしがここにいるのが嫌だから隼人くんが残ってほしいって言った言葉に怒ってたんじゃないのか?なのに今は何かを探るみたいにあたしをじーっと見つめてる。
押し黙るあたしに痺れを切らしたらしい、空が、銀色の髪の中に手を差しいれた。
「もう気づいてると思うけど俺らはただの高校生じゃねえの。へらへら笑ってお前には甘くしてるけど優は俺らの高校のリーダーだし。最初見ただろうけど、あーいう危ねえ事も平気でやる。血だらけになる事だって傷つける事だって傷つけられる事だって平気ですんだ」
優が何のリーダーだって?
「俺らはここらじゃかなり荒れてる高校の一つなんだわ。北原高校って聞いた事くらいあんだろー?」
その名前を頭の中で復唱する、聞いた事は確かにあった。
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