第5話

亀寿はそれを聞いて、ただ俯く。








『…必ず生きて戻れよ、忠堅。私の命令だぞ』








そう言うと、忠堅はただ笑っただけだった。











「忠堅殿は…どう…なられたのでございますか?」









小さな声で聞いてきた亀寿に、最期に見送ったあの背中を思い出す。









「私の父上に従って参陣した肥前の勝尾城での戦いで、大友方である勝尾城主の弟と一騎打ちなどと…無謀なことをして死んでいった。28だった」







 



淡々と言って、亀寿の顔を見ると、口元を押さえ涙を堪えていた。









「これは私の勝手な考えだが…」









そう言うと、亀寿はそっと顔を上げる。








その動きと共にぽろりと零れ落ちた涙を、指先で拭ってやった。








「もしかしたら忠堅は、安堵したのかもしれないと思ってな。



死にゆくことで…半身をもがれた苦しみから開放されると。




—————愛しい奥方に漸く会えると」











  


その瞳から、ぽろぽろと涙が零れ落ちる。











「…亀寿」









それを見たくなくて、名を呼ぶ。







そしてその肩を抱き寄せて、とめどなく溢れる涙をもう一度そっと指先で拭う。










「…あの頃はあまり理解できなかったが…今なら…忠堅の言っていた言葉の意味がよくわかる」











いつか、人生を変えてしまう程の恋をする。







そしてその時は、愛しい女を…絶対に離すなと。







そう言った忠堅が囚われていたのは、身を焦がすような恋。







それは夫婦になっても。







…恋や、愛。

 






…幼い頃の私は、この戦乱の世でそんなもの…存在しないと思っていた。

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