第3話

「沖田畷で敵の大将である龍造寺隆信の首級を上げたのは忠堅だ。そんな武功を上げて、無事に帰る帰路で…奥方の訃報を聞いたそうだ」









亀寿が、そっと口元を押さえる。








「…亡くなられた…のですか…?」









それに、静かに頷く。


  






「ただ忠堅の無事を一心に祈って…病だったと聞いている」








盃を置くと、遠くに浮かぶ満月を見上げた。




   





「忠堅は帰路でその小島に渡った。そして死の直前まで忠堅の名を呼んでいたと奥方の臣下から聞き…その島にある、奥方が自分の無事の帰りを願って積んだ石積を見た瞬間に泣き叫び…狂ってしまった。奥方は23歳…忠堅は26歳だった」









はっとした亀寿に、静かに告げる。










「…きっとその島の事だろう。"恋路島"という名がついてしまったというのは」















『忠堅!!聞いたぞ!龍造寺の首級を上げたそうだな!………………忠堅…?』







薩摩に帰り皆が勝利に湧いて勝鬨を上げる中、忠堅だけが隠れて泣いていた。







一番の武功を上げたはずだったのに。


 




人目を忍び、泣き腫らし。







声をかけられなかった。










「それから…忠堅は苦しんでいた。まるで半身をもがれたようだとまだ幼い私でも、忠堅を見ていて思うほどに。そして数年後…忠堅が二度と帰らぬことになった出陣の時に、言われたことがある」










忠堅に言われたあの言葉は…それから2年後の筑前の岩屋城攻めに忠堅が参陣するときだった。








その2年間…忠堅はただたた…辛そうでしかなった。

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