第91話
10.光が遠くなっていく瞬間
「・・・・何で離れるの?」
「離れたい気分だったから。」
「そう、じゃあこのままで」
そう言って深澤くんは話しだした
「僕は、悲しかったんだ。子どもを慈しむという気持ちになれなかった自分が。いつも、いつでも、蓮伽さんを独り占めしたい自分にハッとなって・・」
「・・・・」
「僕は誰かの一番にはなれないのかって、思った。愛してやまない相手の一番は僕じゃ、ない・・・」
「・・・・それは分かっていて一緒にいてくれているのかと思ってたよ。残念だけど、どうなってもリョウが一番だし、深澤くんは一番にはなれないのも本当だから。
これから先、定期的にそんな事言われるのしんどいな。ヤキモチの矛先がリョウに向かうのも辛い。・・・・今ならさ、、、」
「今なら、なに?」
蓮伽さんは少し無言の後、つぶやいた
「今なら、まだ引き返せるよ。深澤くんも年の近い彼女出来るよ?」
「何を言い出すの?」
「・・・・だってさ、一番言っちゃ行けない事をさっきいったんだよ?自分でわかってる?リョウがいなければって・・・そういう空気を
一番になれないって、そう言った。」
「一番になりたいなら、年上は無理だし、ましてやシングルマザーなんてとんでもないよ。子どもはどんな時でも一番なんだから。」
言った後で、ハッとなった。
彼は、母親に何度も捨てられている
「・・・・・・僕はさ、普通のお母さんに育てられていないからそれはわからないんだよ。子どもよりも男を選んでばっかりいる母親しか知らないのでね。」
「・・・・・わかった、もういいや。」
「なに、それ」
「いや、そうやっていつまでも子どもで居たらいいよ。って思って。」
「は?」
「それだけ長い間泣いていて、結局自分のことで泣いていたんだって思って。」
「それは・・・」
「自分のわがままさを悔いてとか、そういう事じゃなくて、自分の我が通らない事への悔し泣きだったんだね。」
「・・・・・」
多分、今までの中で一番大きなケンカだ。
「きっと、今の深澤くんは他の人と結婚して子どもができても、奥さんの気持ちは理解せずに自分の子どもにヤキモチ妬いて子育てしないのかもね。深澤くん、結婚に向いていないよ。だって、自分、自分、自分。だもんね。」
「・・・・・・・・」
何も言い返せなかった
今まで、彼女もあんまり出来なくて、出来てもすぐ別れていたのは、きっと自分の気持ちが強すぎて相手を傷つけていたから
うすうす気づいていたのに、直してこなかったのは僕だ
自分は辛い思いをしてきたかわいそうな人間だからって、自分を甘やかして生きてきたんだ
蓮伽さんに出会って、自分を包みこんでくれる人だから、年上だからと一方的に気持ちを押し付け、包容力にあぐらをかいてきた
僕は・・・・・
僕には覚悟が足りない
異能力を持つ特殊な蓮伽さん、リョウちゃんのお母さんである蓮伽さん、龍神様の御子を宿した蓮伽さん、etc.....
背負っているものが大きすぎる蓮伽さんの全部を、まとめて背負う覚悟は、好きなら出来ると簡単に考えていた
・・・・・・心の中では、わかっていたんだ
自欲に溺れて、蓮伽さんのすべてを自身に向けようとした自分の未熟さ
だから、泣いた
涙は止まらなかった
「母親である私が受け入れられないのなら、リョウへの嫉妬があるのなら、これから先、一緒にいることは出来ないから、もう、終わりにしてもいいよ?
深澤くんがしんどくなるから。リョウは私の命なの。どんなに深澤くんのことを愛していても、それだけは変わらない。その事が苦しいのなら、私達は一緒にいるべきじゃないんだよ。深澤くんを飽きるくらい愛してくれる人と一緒にいた方がきっと幸せだから。」
蓮伽さんは、今までに見た事がない顔をしていた
意志が強く、でも、儚げで、冷たく悲しそうな顔・・・・
すぐに嫌だ、と言えなかった
・・・・・・・・
・・・・・・・・
「私、上がるね。今日はお子達と一緒に寝るから。明日は私だけで動くから、ゆっくりしてて」
・・・・・・何も言う事すら出来ないまま、蓮伽さんは先に上がって行った
謝る事もせず、疲れている蓮伽さんに声をかけてあげる事もせず、僕は取り残されてしまった
ぼくは孤独な漆黒の闇に自分で沈んでいった
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