第78話

17.ある方は立ち上がり、ある方はもがく








重めな空気の中での食事になりそうだ。










この空気をよそに至って通常運転は蓮伽さん。








「お二人、少しでも話せました?」








・・・・・・二人とも、押し黙ったままだ。








「岩本さん、私・・・」






と、稲垣さんが口火を切った。










—――――――――――先程、湯船に浸かった後、気持ちの変化があったとの事だった。

中居さんへの思いが強すぎて、香取さんに近づき利用しようと思ったが無理だったこと、クスリ付けになって行く自分が不安だったこと、

自分の気持ちを中居さんに利用されているかもという不安に押しつぶされてしまいクスリが増えた事・・・








せきを切ったように稲垣さんは話した








蓮伽さんは稲垣さんに寄り添い、ただ背中を撫でていた








その手は、温かい光に満ちていて稲垣さんを大きく包んでいる








稲垣さんの目から、大粒の涙が頬を連なるようにこぼれた








「今まで、どんな時も中居さんへの思いの為だけに頑張ってきたのよね」








声を上げて彼女は泣いた






蓮伽さんの優しいオーラに包まれて、きっと素に戻っていっているのだ








中居さんは顔色を変えなかった








でも、たくさんの涙がこぼれ落ちている






「稲垣さんは、クスリ止められそうね」







蓮伽さんは稲垣さんを抱きしめた








稲垣さんの体から、紫色した気体のようなものが蓮伽さんの中に吸い込まれるように入って行く







〈・・・・ん?こんなものが見えるなんて・・・?!前よりもはっきりとわかるぞ・・・・〉






「す、すごい・・・・!」







あっという間に、稲垣さんのオーラが澄んでいく







これには中居さんも顔を上げて見入っていた








「中居さん、視えているんですね?」


「・・・・えぇ、凄いわ・・・岩本さんのパワーがものすごく強い・・・深澤くんも視えているのね」


「そうなんです、日に日に視えるものが増えていてびっくりです」






「え?・・・・なぜ、視えるようになっているか知らないの?!」






中居さんがちょっと笑いながら言った








「わからないです、蓮伽さんと一緒に居るからかなとは思ってますけど・・・」





中居さんが蓮伽さんを見て、目を見開いてクスっと笑った






「ふふっ、言ってないです」


と、小声で言った







「岩本さん、意外とSね(笑)」




中居さんは大笑いした






???





僕には意味がさっぱりだ。







「後で岩本さんに聞いて(笑)」








・・・・・・・そうこうしていると、稲垣さんは落ち着きを取り戻し始めていた









とても、穏やかな顔をしている






「中居さん、私、今回の件が終わったら本社に異動させて下さい。」






「稲垣?」





「ずっと一緒にいるのが苦しいんです。これ以上傷つきたくたいし、クスリも止めたい、なにより幸せになりたいから・・・」



「近くにいてはそれは出来ないということ?」



「もちろんです。もう中居さんの事は過去にしたいんです。近くにいたら、共依存関係から抜けられない。」



「・・・・嫌、と言ったら?」



「・・・・・会社を退職します。私を解放してください、中居さん」







意外にも、未練があるのは中居さんのようだ。

でも、その未練は愛じゃない事に稲垣さんは気づいている。






〈中居さんって、人格者だと思っていたけど意外とサイコだな。〉





僕は少し、中居さんを軽蔑し始めていた。




稲垣さんの事も愛している訳ではなく、傷つけても自分の気持ちを満たすためだけにいて欲しいと懇願する、、、

あくまでも、自分。






「深澤くん、顔、あからさまだよ。やめて。」







蓮伽さんの怖い声でハッとする

だいぶ、顔に不快感が出てしまっているようだった






「中居さん、稲垣さんを解放しましょう。そして自分の闇も解放しましょう、私が受け止めますから。今のままでは壊れてしまう。」






蓮伽さんが説得を試みている





「・・・・・そうやって、みんな私を一人にしていくのね。」





「中居さん?」






「根強いな、中居さんの憎悪。」




「そうね、深澤くん、集中して中居さんの胸元見て。」





・・・・・




・・・・・





・・・・・・・ん?僕にも視える・・・何で?






紫とグレーが混じった色が体の奥あたりで渦を巻いている







「蓮伽さん、これは?」


「視えた?彼女は心の奥底に闇がある、この感じは幼少期からね、、、深いなー」







「中居さん、稲垣さんはずっとあなたに寄り添って来た。もう自由にさせてあげて下さい。あなたのホントに大切なものは何ですか?

大事な人は誰なのでしょう?自分の気持ちから逃げないで向き合って・・・」






そういうと、蓮伽さんは小さく呟きながら目を閉じ、中居さんに向かって「気」のようなものを投げた





稲垣さんも、目を見張ってただその光を見ている





「何をしたの?!」





「ごめんなさい、中居さんを元の通りにするために遮断しなければいけないものがありそうです。中居さんをつぶすものは許さない。」






「やめて?そんな事をしたら・・・」



「そんなことをしたら・・?」



「・・・」



「・・・・・・、香取さんから愛してもらえなくなる?クスリ、貰えなくなる?」







・・・・・・・どういうことだ?






「蓮伽さん、説明して?」





「・・・・二人は今でも繋がっているんですよね?」







稲垣さんも目を見開いたまま中居さんを凝視している







「・・・・・・香取は変わってしまった。」









――――――――――中居さんは、今までの色々な事を説明し始めた



中居家はこの地域でトゥスクルとして力を持っていた家系で、とりわけ中居さんは強い力を持って産まれたらしく、

絶やす事がないように中居さんのおじい様が制御しながら、監視しながら中居さんを育てた。洗脳に近い状況だったようだ。

やがて香取さんと恋に落ち、結婚を約束したが、おじい様に反対され無理矢理引き裂かれる形となった。

クスリはどうやら、趣味程度で、愛し合う時のみに使用していたが、そのころから量が増え制御がきかなくなっていった。


時がしばらくたち、北部で色々と事件が起こるようになり、こちらに戻り調べ始めた頃、香取さんと接触。

クスリを止めるように説得したが失敗し、反対にさらに強いクスリに溺れる事になり、肉体関係を再開、今に至るらしい。






「つきあってはいない?んですか?」


「多分、ね。カラダの関係だけだわ。このまま抱かれたら、元に戻るのではという期待をしたけれど・・・どうなのかしらね」


「・・・・そんなにいいですか?クスリを服用してからの・・・」





いけない、興味を以て聞いてしまっている





「体験してみる?あるわよ、少しなら」






「ありがとうございます(笑)、でも私達には必要ないので」


・・・・・・・オーラがすごい、怒、怒、怒、だ。






僕の不埒を見抜いている・・・







「今は、どういう関係ですか?」


「・・・・・・どうなのかしら、少なくとも私の望む関係ではなさそうね。」


「なら、どうして・・・」


「心より、快楽を躰が覚えているから・・・、それでも、いいの。抱かれている時、とても幸せだから」







あの、カッコよかった中居さんはそこにはいない。



ただのジャンキーが一人、居るだけ。






「稲垣さんの事はどう思っているんですか?」






僕はたまらず聞いた。






「好きよ、きっと誰よりも。でも、香取とは違う感情で、愛し合う感じも全然違う。

香取とどちらか選べと言われたら・・・・」






「もう、いいです。こんな中居さんなら、未練なくさよならできますから。」





「稲垣・・」





「わかりました・・・二人のこれからについては近いうちまた。本題は、違うんですよね?中居さん。」






え?こんなに重い話が本題じゃない?







食事は・・・・・どうなる?

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