第42話

「…よく戻って参ったな。そして見違えたぞ。真に良い面構えになった」









叔父上から盃を差し出され、受け取りながら零されたそんな言葉にただ苦笑いすることしかできない。










「家督を継げと言った日には…どうなることかと思ったが」









その言葉に、あの日を思い出す。






いくら叔父と甥の関係ながら、あんな醜態を晒したのは今思うとただ恥ずかしいだけだが。









「…お恥ずかしい限りにて」







そう言うと、叔父上は楽しそうに笑う。







そして屠蘇器を持ち上げるとそっと私の盃に注いだ。








「…まずは一献」








そう言われ、自分の分は手酌をした叔父上に目で合図され共に盃を交わす。











「…どうじゃ。まだ…逃げたいか」












この期に及んでの叔父上の真っ直ぐな言葉に、空になった盃を下ろして、笑う。





 




「……勿論にございます」













島津の全てから…逃げ出してしまいたい








そんなことを、思っていたなと。








……あの日の私は。








だけど思い出して、微笑んだ。









ありのままに受け入れろという…今日から父となる目の前のこの人の言葉を。

























「…九州最強の戦国大名と呼ばれる島津義久の後を継ぐなど…恐ろしい以外の何物でもありませぬ。





————————義父上ちちうえ




























初めて、この人を義父ちちと呼んだ。







それが…先程の問に対する私の答え。

 

















「………父と呼んでくれるか。…倅よ」




 













優しく言い返されたそれに、小さく頭を下げる。


 


 


叔父上を義父と呼ぶということは、この宿命を受け入れたということ。







義理の息子として家督を継ぐという…この宿命を。

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