第41話
静かに歩を進めると、義久叔父上の重臣達が数多座っていた。
私が部屋に入り一瞥すると、その皆が一気に平伏す。
その意味するものを理解して身が竦む思いになる。
それは。
…………今日のこの婚儀をもって、私が島津宗家の家督を継承するということ。
その現実に心の中で小さく笑う。
家督を継ぐことからあんなにも逃れたいと思っていたのに、そんな中で出逢った一人の姫との約束を叶える為だけに豊臣から帰国の許しをもぎ取り…走り続け。
そうしていつの間にか今日のこの日を手繰り寄せたのは紛れもなく己自身だと思うと。
なんと…己の単純で滑稽なことかと。
「若様。暫し、お待ちくださいませ」
そんなことを考えながら、聞こえた誰かの声に目を伏せた。
これから婚儀の前に養子縁組の契を交わす。
偉大なる三州島津太守たる叔父…島津義久の
…さすがに、緊張する。
そこへ足音が聞こえてくる。
誰かなんてわかりきっているからそれに深く平伏すと、静かな声が耳に届いた。
「…面を上げよ」
それに素直に従い、顔を上げる。
するとそこには、穏やかな笑みを湛えた叔父上の姿があった。
「…お久しゅうございます」
全てを見透かすようにじっと見つめられたから、思わず逃れようとそう堅苦しい挨拶を述べかけた時。
叔父上はふわりと微笑んだ。
「………暫く見ぬ間に良い面構えになったの。…久保」
思わぬ言葉に、ただ呆ける。
「暫し婿殿と二人で話をしてから盃を交わしたい。…皆外してくれるか」
そんな私を見てか、叔父上は鮮やかに人払いをした。
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