第四章〜龍神〜

第40話

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………この感情を何と呼ぶのだろう。









姫と夫婦になると決まった日から今日まで、私はずっとそう己に問い続けていた。






問うたびに、その笑顔がちらついて。









『必ず春に、お迎えに参ります。



だから…待っていてください…』











そう堺で約束して別れたあの日から、それを叶えるためだけに走り続け…












そして、今日。






 












——————その約束を叶える為に、私はここに居る。

















…自分で導き出した答えを、この胸に秘め。






 




ただそれが正しいかどうかは…姫に会ってみないとわからないと思うが。








…もう一度。












武将としての正装である直垂と侍烏帽子に身を包んで縁側に立ち、島津宗家の本城であるこの城中に灯された夜の篝火のその中で煌々と輝き咲き誇る桜を見つめる。







そしてそっと微笑んだ。











—————待ち侘びた、と思って。












この約束の季節を。









時折はらはらと散る桜の花びらに手を伸ばす。







手には舞い降りず、それでも自由に散っていく花びらたちはまるで。







必死で走っている間にいつの間にか解きほぐされた、雁字搦めになっていたこの心の中に。







雪の銀世界のように色の無かったこの心に。







一片ひとひら一片ひとひらと音もなく静かに降り積もっては…







—————色を灯してくれるようで。










ただ愛おしく感じて微笑んだ。











————————愛おしく、感じて。



















「…若。…そろそろ」








ふと背後から掛けられた聞き慣れた声に、振り向くことはせずそのまま桜を見つめる。







美しい、と思って。












「…仕度が整っているとのことにございます」







 


「…あぁ」









構わず背中にぶつけられた声に返事をするが、もう少しだけと思ってこの目に焼き付ける。







もう少しだけ、見ていたくて。








…美しいこの桜を。









いつの間にかこんなにも優しい色がついた…









———————愛すべきこの世界を。

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