第39話
「——————亀寿殿!!!」
あの遊女に教えてもらった情報は本当だった、と思ってその姿に声をかける。
考え為しに叫んで、私に気づいた周りの侍女や家臣たちが一気に平伏したから若干目立ってしまったが仕方ない。
「…よい。先に行け。少し姫と話がしたい」
軽く皆を下がらせたことに驚いて振り返ったその顔に。
ただ、安堵する。
「…久保様…」
「よかった…。間に合った…」
「どうなさったのですか!?こんな所まで…!」
本当に驚いているその顔に、少し笑う。
確かにこんな所まで追いかけてきてしまった。
…己の感情に、素直に従って。
らしくない、と言ってしまえばそうだけど。
…これが、本当の私の心なのだと。
そう思えた。
「…御見送りをと…思いまして」
もう一度会えたことに、ただよかったと思う。
——————もう一度、会いたかった。
「…申し訳ありません。…久保様」
思わぬ言葉に、目を見開く。
「久保様が京にお残りになることと引き換えに…私だけが先に帰ることになってしまって…。宗家の娘としての人質だった私が背負うもの…貴方様に全て押し付けることになってしまいます…」
小さな声で言われたそれに、思わず笑う。
本当に……どこまでも、優しい姫。
「…亀寿殿」
静かに名を呼ぶと、俯いていた顔がそっと上がる。
それに目線を合わせて、微笑んだ。
「…私は後から薩摩に戻ります。
道中お気をつけて。
————————春に、必ずお迎えに参ります」
そんな貴女を…必ず迎えに。
許嫁という曖昧な関係から…
———————私の妻とする為に。
「…本当、ですか?」
私の言葉に、少し恥ずかしそうにはにかんでくれた姫に。
どういうわけか触れたくなる。
無意識に上がりかけていたこの手を宙で止めて、静かに降ろした。
…らしくない、と思って。
「…はい。許しなんてどうにかしてもらってみせます。必ず、お迎えに参ります。
—————だから…待っていてくれますか」
私の帰国の許しなんてまだもらっていないわけだから、本当かと少し揺れている姫の気持ちを察してそう笑ってみせる。
必ず迎えに行く。
どんなことをしてでも。
ただ、それだけを伝えるために。
ここまで駆けてきた。
ただ…
————国元で待っていて欲しかったから。
「はい…。約束ですよ…?」
その言葉に、笑って頷く。
春まで、あと半年しかない。
どうにかして…帰る手立てを考えなければ。
この姫を手に入れる為に。
約束を…ただ守るために。
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