第37話
別々に…。
それは確かにその通りで。
形上夫婦になってしまえば、何の問題もない。
ただ…それでは。
——————共には生きられない。
「…よいな。此度は確と言ったぞ。手筈はこちらで整える故、決まり次第また伝える」
立ち上がりかけた父上に、頭で思う前に口から言葉が零れ落ちていた。
「……………嫌です」
その言葉に、父上は動きを止める。
「……何?」
怪訝そうな顔をした父上を見ながら己の口にした言葉を理解して、噛みしめるように呟いた。
「……形ばかりの婚儀など…嫌でございます」
色のない冷たい現実を突きつけられて、漸く自覚する。
私はあの姫のことが気になっている。
…どうしてか近くに、いたいのだと。
「………お前は何を言っている」
呆れたような父上はもう一度座り直す。
そんな父上に、反抗する。
………きっと、生まれて初めて。
「…嫌だと申しております。姫が薩摩へ戻られるのであれば、私も戻ります。
それからでなければ婚儀は致しませぬ」
父上の言う事に反抗するなんて、今まで一度もしたことがない。
「…馬鹿なことを申すな!御上様の帰国が許されたのは、要はお前が京に留まっていればそれで充分だからというわけだ!…次の当主となるお前がな」
…そういうことだろうとは思っていたが。
「………そもそも豊臣の許しがないとお前は帰れんぞ」
静かに私を諌めるように行った父上から視線をそらす。
…こんなことになるなら人質になんて名乗り出るんじゃなかった。
「………では」
…なんて、思う日が来るとは思ってもみなかった。
「……………貰えばよいのですね?」
そう吐き捨てて、立ち上がる。
「父上の仰せの通りそのうち許しを貰ってまいります。それまで婚儀は保留ということにしておいてください」
「待て!久保!!」
「…10日ですね。堺まで御見送りに参りますので」
ただそれだけ言い捨てて、苛立ちを押し込めるようにぴしゃりと戸を閉めた。
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