第36話

そんなことを考えていると、父上が静かに呟いた。

















「お前が家督を継ぐ事も相俟ってな。




……豊臣から御上様の帰国が許されたぞ」



















その言葉に、一瞬思考が止まる。






帰国…?






薩摩に?














「9月10日の堺からの舟で戻られる手筈となっている」










9月10日?







今日が8月の中旬だからあと半月くらいしかないではないか。










「…随分…急な話なのですね」









どうしてか動揺している自分に戸惑いながらも、父上はそんな私に続けた。










「それで、急ついでにだ。御上様が戻られる前に、済ませてしまうぞ」










「……何をですか」









よく回らぬ頭でそう聞き返すと、父上は何を寝ぼけた事を、とでも言いたげに呟いた。









「…お前達の婚儀に決まっておるではないか。この馬鹿たれが」










それに、いよいよ戸惑う。







婚儀を済ませる…?










「………私は帰れないのですよね?」








「無論」








父上は腕を組んで私を見据える。









「婚儀さえ済ませてしまえば、お前が京で御上様が薩摩でと、別々に暮らそうが何の問題もないからな」

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