第35話

戸を勢いよく開くと同時に、声を張り上げた。










「どういうことでございますか父上!!」








「忘れとった!すまん!!」








それと同時にそんな声が響いて、同じ事を考えていたかと心の中で舌打ちする。







まぁ、いい。








「忘れていたなど…よくもまぁ…」








「すまん。それは本当に、すまん!」








16の息子にこんなにぺこぺこと謝る自分の父親に、威厳なんてものを一切感じないと思う。









「…逆にお伺いしますが、どうやったら自分の息子の婚儀の話を忘れるのですか。それも本人に伝えるのを」









座ることもせずに腕を組んでそう言うと、父上は開き直ったように笑った。









「すまんすまん!だがお前はわしなどよりも太守様に直々に話してもらったが素直に聞くだろう!な?」








…それはそうだが。







それも含めて威厳もくそもない父上に、小さく息を吐く。









「……家督の件もです。いつかはと思っておりましたが、こんなに早く継げと言われるとは微塵も思っておりませんでした。まだ16なのですが」









私がどさりと座ると、父上は苦笑いをした。











「……そりゃ兄者の娘可愛さに、だろうな」









その言葉に、ちらりと父上を見る。










「お前を婿養子ではなく、ただの養子として家督を継がせることも可能だっただろうが…そうなると御上様を他家に嫁に出さねばならぬからだろう」










その言葉に、あの日『嬉しい』と言ってくれた笑顔が頭に蘇った。










「どこの馬の骨ともわからぬ男よりも、わしの倅のお前の方が兄者としても気心も知れておる故な。それもあって急がれた筈だが」












私ではないどこかの男と…。






もしかして私でなくても、『嬉しい』と言ったのだろうか。







…あの姫は。







そう思うと、何か不快なものが込み上げてくる。

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