第33話
「…いえ…!申し訳ありません、
思いも寄らぬそれに、素で拍子抜けする。
「……貴方様の様な御方であれば……もう御心に決めた御方がおられます…よね…」
姫は最後の語尾が小さくなってしまって、そのまま黙り込む。
…どうしてそうなる。
その展開はやはり予想外で、女の扱い方なんて慣れていない私は言葉に詰まる。
何も言っていないのに一人で俯いてしまった姫に、やはり気が抜ける、と思う。
……この姫と一緒にいると。
そう思うと思わず笑い出していた。
「…えっ…」
そのくるくると変わる表情がやはり不思議で、おまけにきょとんとしているのがどこか憎めなくて心の底から笑えてくる。
「…そ、そんなに笑わなくても…!」
少し、
夫となる私のありもしない色恋なんぞを気にしている…純真無垢なこの姫を。
「…気になりますか?」
その答えに、今度は姫が拍子抜けしたようで言葉に詰まる。
そして勢い良く言った。
「…も、もういいです…!忘れてください…!」
……あ、気になると言ってはくれないのだな。
なんて思いながらも、その勢いの良さに先程叔父上が『あれの手綱を握るほうが大変』だと言ったことを思い出して余計におかしくなる。
一頻り笑って、気がつく。
この姫と一緒にいると…いつの間にか笑っている自分がいると。
「…苦労をかけるかもしれません。亀寿殿」
呟いて、いつしか顔を出していた遠くの美しい月を見る。
……綺麗だな。
頭に過った言葉に自分で驚くと同時に、そっと衣擦れの音が聞こえた。
「…私でよければ…その道、お供させてください」
私の隣に立って同じように月を見上げる姫の言葉に、少し不思議な感覚に苛まれる。
私と共に生きる道を、選んでくれるのかと。
一緒になることを…嬉しいと。
初めての擽ったいような感覚に、小さく微笑む。
「………ありがとうございます」
不思議な感覚を押し込めどうにか言えた言葉に、姫も笑ってくれた。
この姫と…夫婦になる。
初めての擽ったい感覚を、もう一度噛みしめる。
——————この感情を何と呼ぶのだろう。
まだ知らない感情に身を任せるように、夏の夜の風を感じた。
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