第32話
「…私ほど当主に向いていない男はいないだろうに、とは思いますが」
数多の家臣の犠牲の上に生き延びて、家督を継ぐことになったのだから。
皆が守ってくれた島津宗家の…その新しい時代を。
こんな私が。
幻滅される前にそこはわかっていてほしいと思ったからかわからないけど、無意識にそんな言葉が口からこぼれ落ちていた。
ちらりと姫を見ると、返答につまったような顔をしている。
困らせてしまったな、と思って笑ってみせた
。
「…これから精進しないと。家臣皆に呆れられてしまう」
少し戯けたように言ったが、これは本当に何よりも最初にしなければならないことだと思う。
全てにおいて精進しなければ。
人としても、当主としても。
島津の皆を導くために。
皆の恩に…報いるために。
「…貴女にも愛想を尽かされてしまうかもしれない」
そして男としても…精進しなければ。
この姫に愛想を尽かされないように。
なんて、柄にもないことを思った自分にも驚いて、それを隠すように戯けてみせる。
すると何か考えていたような姫がぽつりと呟いた。
「…久保様は……お嫌ではありませぬか…?私…などと…」
私がさっき姫に聞いたことを、不意に同じように聞き返されて思わず姫を見る。
この姫と夫婦になるのが嫌かどうか…?
…そうだった。
家督のことで頭がいっぱいで考える余裕なんてなかった。
そうか。
この姫と…一緒になるのか。
一緒に…生きていくのか。
——————————これからの、人生を。
…それは。
そう考えて、迷いなく出た答えを告げようと口を開きかけた瞬間に遠慮がちに視線が結ばったかと思うと、姫に勢い良く遮られた。
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