第18話

降り止まない雨音の中、謁見の部屋を出てぼんやりと歩く。








…普通、斬り捨てるだろう。







戦に負けて、服従の証に上洛してその挨拶にきているくせにあんな大口叩く15の若造なんて。







…切り捨ててくれたら、全て終わったのに。









「…お帰りなさいませ」








そんなことを考えながら島津の家臣が詰めている部屋に戻ると、ほっとしたような顔をしている忠継から刀を受け取る。






謁見に家臣を連れて行くことは禁じられていたから、あんな大口を叩いたのを知る者はいない。






…だからあんなことを言えたのだが。










「…あ、あの…」






 


そんな事を考えているとふと後ろから声をかけられて、我に返る。







はっとすると目の前の家臣たちが私の後ろを気にしながら床に額がつきそうなほど平伏していて、そうだったと思いながら腰に刀を差しながら振り返った。









「お久しぶりです、亀寿殿。…まぁ昨日ぶりといえばそうなるでしょうか」








一応子供の頃にあったことはあるはずだから、とりあえずそう言う。





すると姫は慌てたように打掛を翻して私に平伏したからぎょっとした。








「申し訳ありません…!。昨日は全く気が付かず…。まさか久保様だとは…」











普通に、私に向かって頭を下げているから。






太守様の御息女ともあろう御方が。









「そんな。無理もありません。会うのも子供の頃以来ですからね。近い所に住んでいたわけでもなかったし」







慌ててその前に片膝をついて目線を合わせる。







すると一瞬顔を上げてくれたと思ったら、姫はまた顔を伏せてしまった。








「…昨日といい、今日といい…忝のうございました…」








「いえ。礼を言われるようなことは何もしていません。それよりも先程は…亀寿殿をだしに使ってしまって申し訳ありません」








貴女をだしにして、逃れようと思った。







この色のない戦乱の世から。






…失敗したが。










「いえ!島津の威信のために…ありがとうございました。義久の娘として、お礼を」








そう言って頭を下げかける姫をぼんやりと見つめる。





太守たる義久叔父上の娘と言いながらも、少しもそのその威を笠に着ることもない。





そして私達は血筋上は従兄弟とはいえ、姫の父君からすれば一家臣にすぎない私に何の躊躇いもなく詫び、そして礼を言って頭を下げている。






…おかしな姫だと思って、調子が狂う。






無意識に込み上げる笑みを堪えていると、目があった姫の顔にも小さな笑みが浮かんだ。








「……やめましょう。終わらない気がする。せっかく久々に会ったのに」

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