第5話

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その翌日…5月19日に飯野城に籠城していた父・義弘は降伏のために野尻に布陣していた豊臣秀長の元に出向いた。






父上に願い出て、私も共に。







それと同時に飯野城は開城。

 






ここに、島津の九州制覇の夢は途絶え…豊臣の下に屈し。








九州征伐は終結した。










徹底的な降伏を示すため、私は日を置かずに京へ発つことになった。








それから2日後の今日…5月21日。







————————京へ、発つ。










「…待て、久保」









早く京へ行ってしまいたかった。






…島津の後継者という重圧から逃れるように。








だから皆に見送られたくなどなかったから、日も昇らぬうちに一人で行きたかったのに。








馬に跨がろうとした瞬間に後ろから声をかけられた。








「…父上」








「……すまぬな。…許せ」


 







振り返ると、そこにはただ申し訳無さそうにしている父上が立っていた。








「…私が申し出たことです。お気になさらず」








そう言うと、苦笑いした父上が近付いてくる。







まだ暗い中で月明かりに目を凝らすと、父上が外行きの格好をしている事に気づいた。









「…京へ行く前に、顔を出せとの仰せだ。そこまで送っていこう」









「…顔?…どこにですか」








送っていく、という言葉の意味を理解できないまま答えると父上は隣で軽々と馬に跨がった。





 









「…曽木そぎの豊臣秀吉の元に」














曽木。





この飯野城から東へ10里程の地。






そんなところに秀吉はいるのか。




 





「…何の為にですか」







 

この期に及んで、謁見など…何の為に?











「…ほら。行くぞ」


 








何も言わずに、父上は馬の腹を蹴る。







それは自分が人質になると、私が申し出た時のように。







あの時も何も言わずに…私を連れてそのまま豊臣秀長の元へ出向いた。







ただ、敗軍の将が嫡男を伴って降伏する為に敵地に赴く。









それは…この乱世では暗黙の了解だった。

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