第6話

心底見飽きたと思う。





至るところに蔓延はびこるこの豊臣の家紋など。










「…そなたが島津義弘か。そして…」









「…義弘が一子、又一郎久保にございます」











私と父上は1日かけて豊臣秀吉が布陣している曽木に辿り着いた。








そして堅苦しくて嫌いな直垂に袖を通し平伏して、私は今…天下人の前で名乗っている。








緊張なんて微塵もしない己が恐ろしいとさえ思った。









「面を上げよ。…又一郎」









その声に、静かに顔を上げる。


 



  

そして目の前の男を見つめた。








これが豊臣秀吉かと、心の中で悪態をつきながら。











「……お主、人質となり京へ行くと自ら名乗り出たそうだな。秀長から聞いておるぞ」









それにただ小さく頭を下げる。










「…己のこの身など…それくらいにしか使えぬと心得ております故」









…聞いてるなら早く行かせてくれ。







曽木なんて京への道順と逆方向なんだ。



 





早く…早く逃れたい。







少しでも、この島津の名から。












俯いたままそんなことを考えていると、秀吉が目の前にやってくる。






否が応でも顔を上げなければならず、そっと視線を向ける。






すると秀吉と視線が絡み合った。









「…ほう…。これは…なかなかに」










その扇子が顎に置かれると無理矢理顔を上げさせられ、不快だと思う。







…このまま斬り掛かってしまえば、全てから開放されるだろうか。





 


この身を雁字搦めにしている…相反する二つの感情から。



 



…島津の全てから。








なんて思った瞬間。







ぱっと扇子が外された。

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