第6話
心底見飽きたと思う。
至るところに
「…そなたが島津義弘か。そして…」
「…義弘が一子、又一郎久保にございます」
私と父上は1日かけて豊臣秀吉が布陣している曽木に辿り着いた。
そして堅苦しくて嫌いな直垂に袖を通し平伏して、私は今…天下人の前で名乗っている。
緊張なんて微塵もしない己が恐ろしいとさえ思った。
「面を上げよ。…又一郎」
その声に、静かに顔を上げる。
そして目の前の男を見つめた。
これが豊臣秀吉かと、心の中で悪態をつきながら。
「……お主、人質となり京へ行くと自ら名乗り出たそうだな。秀長から聞いておるぞ」
それにただ小さく頭を下げる。
「…己のこの身など…それくらいにしか使えぬと心得ております故」
…聞いてるなら早く行かせてくれ。
曽木なんて京への道順と逆方向なんだ。
早く…早く逃れたい。
少しでも、この島津の名から。
俯いたままそんなことを考えていると、秀吉が目の前にやってくる。
否が応でも顔を上げなければならず、そっと視線を向ける。
すると秀吉と視線が絡み合った。
「…ほう…。これは…なかなかに」
その扇子が顎に置かれると無理矢理顔を上げさせられ、不快だと思う。
…このまま斬り掛かってしまえば、全てから開放されるだろうか。
この身を雁字搦めにしている…相反する二つの感情から。
…島津の全てから。
なんて思った瞬間。
ぱっと扇子が外された。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます