第4話

「何があっても…お前はそのままでいろ。



間違っても私のようになるな。




————————絶対に」

















その背を撫でながら、目の前で泣いてくれる弟にそう言い聞かせる。





 


ただ、それだけを願っている。








泣いて笑って、ありのままに生きてほしい。








人間、らしく。   








それを失った私のようになど、なってほしくはない。














「……ありがとうな。お前は私の誇りだ。



—————————————忠恒」













そう言って、強くその背を叩く。










「…全て私が背負う。



…だからお前は何も心配するな」





 






世界に色を無くすような後継ぎの重圧なんて、全て俺が背負ってやる。









全て…この兄貴が背負ってやるから。









お前の世界を守る為なら、いくらでも。













「…飯野と母上を頼んだぞ」













いつからだろうか。








まるで真冬の単調な銀世界のように、この世界に色を感じなくなったのは。








この己の生まれ落ちた境遇のその全てを悲観するようになったのは。









物心ついた時から後継ぎとして育てられていたから。




  






………もう思い出せもしない。










そう心の中で苦笑いして、ただ泣いてくれる弟の背を撫でた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る