第3話

島津を守る為なら、何だって。








死んでいった家臣達の命を無駄にしないために。







……跡取りだからと戦いにすら出してもらえず、多くの犠牲の上にただ生かされただけの私の命など。









島津に捧げてやろうと思う。









……豊臣に、くれてやろうと思う。













この命など…








————————別にどうなってもいいから。

























「……兄上は…京へ行きたいのですか」








 





 


ふと落とされた唐突な言葉に、ふと足元に座り込んでいる忠恒を見下ろす。



 






「……そんなわけないだろう」



  






行きたいか行きたくないか…なんて考えたこともなかった。








だからとりあえずそう答える。  









すると勢い良く立ち上がった忠恒は強い瞳のまま叫んだ。






 

 


「じゃあどうして御自分から人質になるなど申されるのですか!!」



 





 


強い声とは裏腹に、忠恒の瞳に涙が溜まっていく。




 



それを見据えて、もう一度呟いた。















「…島津の家を守る為だ」


  









守る?



 


どうやって。






己でもどこか空虚だと思いながら、その言葉を吐き捨てる。










その言葉をぼんやりと聞いていた忠恒は苦笑いした。











「兄上は…いつもそうです…」










その涙を隠すように、目線を外して上を向いている。






だが堪えられないと諦めたように息をくと、もう一度私を見据えて叫んだ。










「兄上はいつだってそうだ!!自分の御心にはいつも蓋をして、自分の気持ちに嘘をついて!!ただ家の為、家の為と!!


嫌だとか思わないのですか!!」










その瞳から、音もなく涙が零れ落ちる。










「嫌なら嫌と言えばいいではないですか!!泣き事ひとつ言わず恨み事ひとつ言わず!!明日島津の為に死ねと言われれば兄上は躊躇いもしないでしょう!!」









忠恒はその涙を拭いもせずにこの胸ぐらを両手で掴んで、叫ぶ。
















「もうやめてください!!



————————どこまでその御心を殺されるおつもりですか!!」


















この胸ぐらを掴んだまま項垂れて泣く忠恒の足から力が抜けて座り込む。






そして小さな声が聞こえた。






 













「…京なんていくらでも俺が行きますから…




———————だからもう止めてください…」


















涙に揺れるその声に、ただ不甲斐ないと思う。









心から…こんな兄で申し訳ないと。












「………ごめんな…」











ただそう言うことしか出来なくて、幼子のように泣くその背を抱き締める。







その背がいつしか逞しくなっていて。







大きくなったなと思う。







優しくなったなと…ただ思う。













「………ありがとうな。忠恒。お前は優しい子だ」








 



こんな兄貴の代わりに怒って、泣いて、叫んでくれる。









そんな感情なんて…









—————いつしか遠に失った…この私の代わりに。

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