第84話 孤独と執着の解放、最後に残るもの

私と父とのやりとりを知ることなく、彼がシャワーから戻って来た。







「片付けありがとうね、落ち着いたら帰る準備しようか。」


「.....うん.....そうだね。」







重々しい空気に、言葉少なだ。







「......どうした?なんか様子が変だけど。」



「深澤くん、座って。」



「......。」



静かにこちらを見つめ、ソファに座った。






「どうした、の?」


「あのね、深澤くん、このまま帰って大丈夫?私に言いたい事があるんじゃないの?」


「急にどうしたの?」


「急じゃないの、ずっと気になってたから。」


「.....」


「深澤くんの心が泣いているの、孤独の中で。」


「え?そうなの?......大丈夫だよ!僕、平気だから。気にしないで、帰ろ....」


「平気じゃない。出来ないよ、出来ない。大好きな人の心が寂しさで壊れそうなのに、それでも笑おうと無理をしている。人を癒す能力を持っている私が、大切な人の心の苦しみを救えないなんてありえないでしょ?私にたくさんの愛を注いでくれるあなたの苦しみをそのままには出来ない....」


「.........じゃ、どうすればいいわけ?あなたをさらってしまいたい気持ちを押し殺しているのに、笑って送り出したいのに、僕のトラウマなんて蓮伽さんが背負うものに比べたら小っちゃいものなんだからさ、ほっといてくれよ!!!」


「............違うよ?深澤くん、それは違う。私にとってはどんな使命より、あなたの方が大事なの。あなたがいなければ慈愛に満ちた能力だって使うことが出来ないし、第一、これからの人生、幸せじゃない。リョウがいても、あなたからたくさんの愛をもらった私は、もうあなたがいなければ私ではいられないの。」


「......なんで、何でよ.....すぐ帰ってくるんでしょ?だったら、見て見ぬふりして出かけてよ.....どうして、、、、僕に何を言わせたいの?!」


「深澤くん、私を本当に信じてくれている?心のどこかで裏切られてもいいように諦めていない?物わかりのいいフリしているんじゃないの??」


「物わかりのいいフリ?そうだよ、だから何だよ?引き止めてはいけない理由で離れるんだから、そうするしかないだろ?他にどうしろって?そもそも、蓮伽さんは既婚者で、帰れば何事もなかった顔して抱かれ....」






言いかけて、慌てて口ごもった。






「そっか、結局そう思ってるんじゃない。私、そんなにだらしなく映ってるんだ、旦那がいるのに若い子に股を開いて、何ごともなかったのように旦那にも酔って声をあげる女って、そう思ってるんだね。」


「いや....そんなこと思ってない...」


「そう思ってるから出るんだよ、そんな悲しい言葉が。深澤くんはさ、相手の気持ちをSEXでしか計れないの??」


「.......そうだよ、悪い?その時だけが、相手と二人だけの世界にいて、相手が自分を欲して懇願する。僕は優位にたって必要とされる。でも、終われば何を考えてるかわからない。本当に自分を必要としているかなんて、女性は平気で嘘をつくからね。」


「......そうやって、相手の気持ちを信じずに来たんだね。だから、信じて貰えずに来た。欲しがってもらえることに優越感を得て、自分は傷つくのが怖いから欲しがらない。私と出会い、欲しいと思ったのに傷つくのが怖くて素直な心には蓋をした。」


「........。こんなに好きなのに、こんなに愛してしまったのに、僕のものにどうせならないんだ。」


「そんなことない。全部の事が片付いたらきちんとする。」


「.......そんなの、わからない。母親だって、母親なのに、平気で僕を捨てた。血が繋がっていないなら尚更。」


「深澤くん.....そんな気持ちで、私を抱いていたの?そんな気持ちで、愛してると言ったの?気分良かった?悦んで声を上げていた私をさげすんで満足?」










目を閉じて聞いていた深澤くんは、急に立ち上がり、あざが出来そうな程の力で私の腕をつかんだ。






「痛い、離して...!」






向かった先はベッドルームだった。

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