第77話 あの人の声

鍛練、修行を積む時は、人知れず行かなければならないのは鉄則である。





それは、俗世に思いを置いていき、修行に集中する為であり、

感情を揺らしてはならず、後ろ髪をひかせないためでもある。






(確か、話をしたはず....思い出して.....私からは話せないの、お願い...思い出して!!)







相変わらず、納得のいかない悲し気な、苛立たせた怒りを滲ませている。








月の角度も変わり、冷え込み始めた。









すると、突然温かい風が吹き荒れ、どこからともなく声がした。








〖蓮.....伽......蓮伽、聞こえますか?〗






(こ、この声.....)


「な、何?!今の声!」


「え?深澤くんにも、聞こえているの!?」


「聞こえているよ、はっきり蓮伽さんを呼んだ!」






「ば、ばぁちゃん?!」


「え”っ?!蓮伽さんのおばあちゃん??」


「そ、そう.....だと思うんだけど。」






〖思うとは!忘れたのですか!?〗






「(笑)ばぁちゃんだ。ばぁちゃん!元気??....もおかしな感じだけど」




〖蓮伽、元気そうですね.....ん?蓮の花!まさか、蓮伽に咲いたとは!〗




「ふふっ、そうなの。咲いちゃった♡」





やはり、蓮の花の事を知っていた。






〖そうでしたか.....修行を、鍛練を、頑張ったのですね。そして、あなたは今、愛で満たされているのですね。〗


「(照)うん、満たされてるよ」





〖other harfに会えたということですね、蓮伽。でなければ花は咲かないはず、しかも蓮の花!〗


「うん、蓮の花の事、咲く理由・・・何か知っている事があるんでしょ??あれば教えて!」








ばあちゃんが、久々に降臨した。




と、いうことは大事な話、だ。





〖とりあえず、隣の者、礼を言います。蓮の花が咲くということはそれだけ満たされているという事でもあり、何より、other harfでないと

咲かない、とされています。二人が巡りあうことで、高次元に返せる恩もあり、この星の為にもいずれなるのですから。〗







深澤くんはびっくりして言葉が出ない。







「ばぁちゃん、何で深澤くんは、ばぁちゃんの声がわかるの?」





〖.........〗





「.......??」

「......???」







〖.......一つになり、蓮伽に包まれたからです.....(笑)蓮伽の中に抱かれたからですよ、言わせないように(笑)〗






「.........あ!(照)」

「........ふふっ(恥)」





〖・・・随分、蓮伽と年が離れているように見えます。〗




「ん、14歳下、こちらは深澤くん、深澤舞翔さん。」





〖14歳?!....じいさまと私は10歳差だったので、蓮伽の方が、いい女、なのね(笑)〗




「なに、それ(爆)........えーー!じいさま10歳下だったの?!」




〖はい、そうですよ。〗



「.......ん?蓮伽さん、おばあさま.....後ろに花が咲いている」

「ホントだ、あ、そっか。私のが見えるなら見えるか。」




「ばぁちゃんは、芭蕉...水芭蕉だね!」




〖蓮伽には及ばず、です、悔しい(笑)異能の位も、今は私よりもあなたの方が上のはずですよ、最高位です。

......本当なら、あの子も蓮の花が咲くはずだった。〗





「母ちゃま?」





〖そう、蓮伽は鍛練・修行を経て今があるけど、あの子は生まれた時から特別だった。何をせずとも異能の力が凄かった〗




「知ってて抑えたし、あえて出さないようにしてたんだよね、母ちゃまから聞いた。蓮の花が咲くということは....」




〖お前の父親はあの子のother harfよ。〗




「そうだったんだ、父ちゃまが....」




〖それを、伝えにきたのではありませんよ。もう、あなたは大丈夫。ということを伝えに来ました。心も鍛練したようですね、霊格が上がっていますよ。

なぜ会えないかを告げてあげなさい。蓮の花が満ち足りない事の方が、危機です(笑)〗



「やだ(笑)......わかった。ちゃんと告げるよ、あと気を付ける事は?」



〖......蓮伽、あなたはこれからまた鍛練に行く気なのよね。苦しいけど、そこには彼を連れてはいけないのは分かってるわね??〗



「ん、わかってる。話してもいいけど、連れては行けないということよね。」



〖そうよ、今の色々な事があなたにかかってしまっているのは心苦しいけど、何かあったら必ず支えるから、頑張ってね....〇✕$※..〗



「ばぁちゃん!」







「僕が、僕が支えます!見守っていてください.....」






温かい風はフワッとなくなり、冷たい空気が戻って来た。




(.........。)




「最後、何か言ってたね、聞き取れなかったけど...」





聞こえてしまったが、深澤くんに伝えるのを悩む内容だった。






ばぁちゃんは、小さな試練を置いて行った。

伝えるのかどうか、私を試している。






(..........どうしようかな....きっと、深澤くんの覚悟を試しているんだ。)





「最後、気になる。蓮伽さんは何を言ったのかわかっているんでしょ?教えて。」




(ま、そうなるよね。)




「ばぁちゃんから、深澤くんへのメッセージ。まあまあ、厳しいけどホントに聞く?」


「もちろん。聞かないって選択肢はないよ。」


「だよね(笑)......霊格が私に追いついてないので成長しなさい。って。」


「なるほど、納得。自覚あるから。特にショックではないけど(笑)」


「それと、」


「え?まだあるの?」


「なぜ、会えないか?の事。」


「.......。」


「少し、鍛練を積む為に修行しようと思ってるから。」


「......?!どこかへ行くんだね?」


「そう、俗世と離れないと精神的には鍛えられないし、あなたの存在自体が邪念になる。」


「すごい言い方だね、もう少しオブラートに包んで言ってよ(笑)」


「ごめん、ごめん(笑)違うの、私がブレるから。あなたを近くで感じると、私が冷静じゃいられないの.....」


「......蓮伽さん...。」


「私の気持ちがざわついちゃうの。触れたいと願い、触れて欲しくなってしまうから。」


「.......わかった。でも、僕も一緒に帰るよ。出来る事をやるし、蓮伽さんの力になりたい。僕もレベルアップしないとね。

ずっとそばに居たいから。努力をしない.....ん..っ」







愛おしくて、キスをせずにはいられなかった。





こんなに焦がれてしまうなんて。

こんなに欲してしまうなんて。




「ん....チュッ、蓮伽さん、other harfって?」


「ン.....、魂の片割れ。宿命の縁。」


「.......ん、蓮伽さん、唇が冷たい。中に入ろ?」


「......そうだね、温めて.....」


「この、小悪魔(笑)」







笑いながら、私を抱きかかえベッドルームへ向かった。

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