第68話 稲垣さんの思い

近くにあるお寿司屋さんへ案内された。




中居さんは店内にいる他のお客に声を掛けたり掛けられたりして、和気あいあいと話をしている。


「稲垣、奥へお通しして。みなさん、先にどうぞ。」



私達は奥へ、中居さんはまだ店内に残って話していた。




「中居さん、皆さんに必要とされ、大切にされているね。彼女を囲む周りのオーラが温かい。」


「ん、そうだね。それは僕でもわかる。感謝の空気に包まれている....よ、ね?」


「(笑)正解。感謝の空気、素敵ね。」





「中居さんは、この地域の精神的な支柱ですから。ご自分を犠牲にして、集落の為に尽くす....ここの住民の大半は中居さんに戻ってきてもらいたいと

願っています。本当だったらここで香取さんと幸せに暮らすはずだった...

なのに、静かに突然、この地域からいなくなり帰ってきても香取さんから逃げるようにひっそりとなさっていて...

見ていて苦しいです。私じゃ、中居さんを心身ともに救えない。」



稲垣さんは、とても詰まった声でそう言った。




「.....心身共に?」

小声で、深澤くんは反応をする。



「.....そのことはあとで。」

「OK」




「ささ、どうぞ。ここのお寿司は特に美味しいのでいっぱい召し上がって下さいね!」




「......稲垣さん、聞いてもいいですか?」




私には、引っかかっていることがある。


深澤くんも、次の一言を待っているようだ。





「.....どうぞ。」





「答えたくなかったら、そう言ってもらって構いません。

稲垣さんの中居さんへの気持ちは、私が深澤くんを思う気持ちと一緒ですか?」




「......」




「稲垣さん、嫌なら答えなくて...い」





「.....そうです。同じです。」





「.....やっぱり。」


「・・・・体の関係もあります。」


「.....稲垣さんの気持ちを中居さんは....」


「知っています。」


「そうですか。」


「......後で、お部屋に寄らせてもらっていいですか?その時に詳しくお話しします。

今は、お食事をなさってください。中居さん、こちらに来られます。」


「...はい、わかりました。お待ちしてますね」





「皆さん、失礼します。いかがですか?ここのお寿司。私の中で一番なんですよ!」





「おいしいです!東京へ戻ったら、なかなかこんな美味しいお寿司食べられないですものね」


「本当に美味しいです!なんか、僕、何にもしてないのにいい思いばかりしてますが・・」



「何もしていないなんて、とんでもないですよ~

深澤さんのおかげで、岩本さんの覚醒があります(笑)」


「それが恥ずかしい(笑)中居さんに見られているのですかね(笑)」


「あはははっ、深澤さん、大丈夫!そんな趣味ないので(笑)」


「(照)あー良かった」


「当たり前でしょ(笑)なんて話を肴、に魚を、食べているの」


「.......えっ?」


「・・・・・だーかーらー」


「嘘(笑)洒落が寒すぎて、スルーしようと思って。」


「もぅ!!」




笑いに包まれながら、楽しく食事をした。





—―――これから、大変な事がきっと起こって行く。

しばらくはリョウにも会えない。

深澤くんがいてくれて良かった。

ま、深澤くんがいてくれないと、このミッションは成功しないのだけどね。







・・・・・・・




「ごちそうさまでした、では、中居さん、また連絡致します。」


「......宜しくお願いいたします。稲垣、お送りして。」


「.....はい、中居さん今日は直帰でよろしいですか?今後の段取りなどを相談したいので打ち合わせして帰りたいと思います。」


「わかりました。では、明日。」






私達は宿へ向かった。

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