第67話 トゥスクルとシャーマン~トゥスクル~

「中居さん、さっき稲垣さんが話していた....」




「......そうですね。そこを知らないと、岩本さんの力をお借りすることが出来ないですよね。」





”トゥスクルの家系で伝承のレベルが強いほど、男性との交わりで絶頂を迎え、体の中に相手を感じる事を禁じられている”





「これって、どういうことですか??」




「.....」

神妙な面持ちで、中居さんは話し始めた。




「遥か昔、トゥスクルを統べる者はもう少し多くいました。

ルーツや気候のせいもあるのでしょうか、男性は気性の激しい者が多くて、シャーマンや他の特殊な能力を敵視していた者がいたと言います。

統べる者のトップの家系がうちで先祖は頭を悩ませていたらしいです。さっきの、シャーマンの異能・ヒーリング・性エネルギーの話しがあったかと思いますが、

それをどこかで聞きつけて来た者がいて、トゥスクルにもそういう事があるのではないか?と言い出しました。」




「確かに、文献等を調べたりするとトゥスクルの気性的なものも度々出てはきます。

荒いんですよね、自然により近いところで生活しているし、気象が過酷というのも止むを得ないとは思います。」



「ええ、そうなの。ある時、根底を揺るがす事件が次々起こった。「性エネルギーで能力をアップ出来る」と権力をかざし、強制的に

女性と次々と行為をしていった、誰かのものだろうが構わずに。」



「.....酷すぎる...」



「その頃は、色々と問題があったりして内部が乱れていた時期で、不満が結局弱い者に向けられた。」



「行為を行った人は、能力を使う資格はないわね。」



「もちろん。長である先祖も怒りが収まらず、その者たちのトゥスクルの能力を禁じ手を使って末代まで封じた。」



「末代まで.....か。能力があることをいいことによっぽど酷い行いをしたのね・・・・。もしかして、中居さんの家系以外の使い手は......」


「そう、その時に封じられたまま...なの。トゥスクルは掟で、一般の家系とはお墓を分けられていて、成仏が出来るように、と、

悪霊に取り込まれる事が無いよう、うちの家系が除霊を行っている。」


「あ!それは、うちも一緒です。霊媒が出来る家系についてはうちの家系のものが浄土へ見送ります。

悪いものからの執着を外し、安らかに輪廻転生ができるように。」


「.....なんか、すごい人たちの中に僕はいるんだって...興奮します。」


「ところが・・・・」


「その封じていた家系の御霊たちが、悪霊と化し成仏できてない?」


「.......さすが、岩本さん。その通りです。」


「中の負の力が大きすぎてしまって、手に負えなくなっています。」


「あの....もうひとつ。男女で体を重ねるのは、なぜダメなんですか?」


「トゥスクルの家系のみ、交わる事についてはいくつかの戒律をつくり禁忌を設けました。

残念な話ですが、トゥスクルは男性が主導なので、心身共に愛し合い、女性が絶頂を迎え男性を度を越えた快楽に誘うと

自分たちを脅かす何かが生まれるのでは、と避けたようです。」


「何とも、苦しいですね.....」


「はい、そしてその戒律を作った家系の子孫なので、私は愛する人との交わりを禁じられています。

他の行為と、同性同士の絶頂は、認められています。」




「トゥスクルの能力を継いで行く人が居なくなります、それでいいんですか?!」

深澤くんは少し声を荒げ、震えていた。





「他の行為?交わる以外の行為ということですか?」


「そうです、自慰や交わる以外の行為はOKです(苦笑)

でも、本気で愛し合って、体を求めあう事が、応えることが出来ないなら、苦しいのでもう恋愛はしないと決めています。

大切な人もそのことで、傷つけてきましたから....いいんです、トゥスクルの血筋が私で終わっても。

本当に愛してる人じゃなければ、絶頂も交わる事も、すべて意味がない。

私は、そう思っています。

だから、私の代で・・・・・」




稲垣さんはしゃくり上げて泣いている。

「そんなの、苦しすぎる!辛すぎます!あんなに、中居さんを思っていた、香取さんの気持ちは!!」





「香取さん....?」




「はい!中居さんにはかつて、恋人がいました。トゥスクルの家系の人です!」




稲垣さんは制止を振り切り、話し始めた。




「トゥスクルの家系...ということは」


「.....はい、香取さんの方が身分は下です。でもほんとに中居さんのことを大事にしていたし、

どうやったら結ばれるのか、真剣に答えを探していた。でも....」


「でも、引き裂かれてしまった。」




「いえ、正確には私が東京に行くことで別れを一方的に告げました。

今、帰って来てる事を彼は......知らないと思います。

稲垣....誰にも漏らしてないわよね?」


「..........はい。中居さんとの約束ですから。」





「........」


「........中居さん。」

深澤くんが声を絞り出すように言った。


「何も理由を言わず、突然姿を消されるということが、どんなに心の傷に残るか....あなたは分かっていますか?」


「....ん、そうね、深澤くん、あなたは知っているものね。」


「僕は30年近く、深い傷となって残り、内側から自分を痛めつけて生きて来たんです....蓮伽さんに会うまでは。蓮伽さんに抱かれ、蓮伽さんの愛に包まれて

その閉ざしていた扉をやっと開けられた。香取さんの気持ちを思ったら、僕は苦しい。

キツい事を言うようですが、離れて気が済んだのは中居さん、あなただけだ。あなたの居たこの場所で、あなたを感じ、あなたを想って、今も焦がれている

香取さんの気持ちはどうなるんです....」


「深澤くん、そこまで!言いすぎだよ。今の深澤くんは、自分を重ねて、自分の感情を乗せている。

中居さんは、諦めていない。ね、そうですよね。だから、私を呼び、私達が交わることを信じ、私達に掛けた。違いますか?」


「........えっ?!」


「私達のエネルギーを感じ、私達が求めあっていることを本社で会った時に気づいた。

二人の性エネルギーを感じ取り、私が「”陽”のパワーを強くする事が出来し者。」であるかを確信するために

昨日、一日あえてオフにして、私達が愛し合うことを期待した。」


「......蓮伽さん、いつ気づいたんですか?」


「ん、中居さんの心の奥に意識を合わせた。様子がおかしいと気づいたタイミングがあったから。」




いつも、とても凛としている中居さんが泣き出し、足元から崩れた。



稲垣さんが支えに入る。




「中居さん、私が頑張ります。中居さんのお陰で、深澤くんとの大切な時間と深澤くんからの愛をいっぱい貰うことが出来ましたから。

必ず、ミッション完遂します。」


「....蓮伽さん.....」





「まず、今日一日では時間が足りません。宿の延長の手続きをお願いします。

それと、異能を使って何をどうすればいいか考える時間を下さい。

あと、トゥスクルのお墓がある場所へ連れて行って下さい。

やらなければいけないことがいっぱいあります。」


「宿の手続きは・・・」


「ひとまず1ヶ月。」




「.......?!蓮伽さん!ホントですか!僕も居ていいんですよね!」




「ふふっ(笑)、深澤くんいないと...だめでしょ♡」

耳元でそっと囁いてあげた。








中居さんは落ち着きを取り戻していた。





「岩本さん......ありがとう....本当にありがとう...」


「何を言ってるんですか、私の異能は「ヒーリング」ですよ!」


「そうね、あなたじゃないと出来ないミッションね。」


「今日は、一旦お開きにして貰っていいですか?家族へ事情を説明したいので。」




中居さんが通常に戻り始めた。

「では、今すぐに宿の整理と、連泊の準備をおねがいします。

ご飯、食べ損ねたので今から何か食べに出ましょう。」




「私が手配いたします!」

稲垣さんはとても嬉しそうに声を発した。




でも、私は見逃さなかった。

稲垣さんの顔が切なさで歪んでいたことを......

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