第62話 深澤くんの幼少時

月明りが心地良く、満ち足りていくのが分かる。



さっき、愛し合ったことも理由ではあるとは思うが

器が満ち足りていく感覚に包まれる。





「蓮伽さんは、月に照らされていると特に美しいですね。」


「そんな恥ずかしいセリフ、よく言えるね(笑)」


「いや、女性はみんなそうなのだろうけど、蓮伽さんしか興味ないので(笑)」


「ありがとう、私のカラダは深澤くんの愛でできているね(笑)」








————————―大きく深呼吸をして、深澤くんは話し始めた。


「蓮伽さん、僕が過剰に一人になるのを嫌がるのには理由があるんです。」


「.....話してくれるの?」


「...はい、だって僕は蓮伽さんとずっと一緒にいたいと思ってるから。

触れられたくない部分でも、蓮伽さんならって思ったので・・」


「そっか。どんな事でも受け止めるし、聞くよ。深澤くんのことだからね。」


「ありがとう、初めて人に話すから緊張するな....」


「大丈夫、ゆっくりでいいよ。」


「.......僕、母親に何度も捨てられているんです。」


「.......そう、」


「最初は、3歳の時でした、両親が離婚して母が僕を置いて出ていった。

ここまで、育ててくれたのは父と祖父母でした。

実家は、名家ではありませんが、

代々その土地で商売をやっていて土地も割と持っていたので

ひもじい思いをすることはなく、育ってきました。」


「そうなんだね、母親にそれをされるのは辛いね。」


「・・・はい、二回目は小学3年の時です。

母のいない生活に慣れ、穏やかに暮らしていたころでした」


「......お風呂、上がろうか、部屋で話そう」









・・・・・・・・・・・




「ねぇ、小腹へらない?」


「確かに...。僕作りますよ!」


「ううん、私が作るよ、座ってて」






キッチンで作っていると、

深澤くんが様子を伺いに来た。


「いいにおいするけど、何作ってるの??」


「とても美味しそうな鯛が冷蔵庫にあったので、鯛茶漬けと即席のお漬物を。」


「すごいな....もしかして鯛、今さばいたの??」


「そんな大げさにいうほどでもないよ、新鮮だから簡単。

骨で、出汁もとれるし」


「これか、においの正体。いい香りだー!」


「もうすぐできるから待ってて。」





・・・・・・・・





「さ、食べよ。」


「いただきます!」





出張中、ずっと一緒に過ごしているが

一番優しい二人だけの時間が流れている気がした。



「おいしいね」



深澤くんもとても嬉しそうに食事をしている。




・・・・・・・・


「ふぅ、美味しかったです、蓮伽さん♡」


「美味しくできてて良かった、素材が素晴らしいものね。」


「外の豪華なご飯も、屋台の食べ物ももちろん美味しいけど

こうやって大切な人が作ってくれて、顔を見ながら食べるご飯が一番美味しいです。」


「そうだね、特に深澤くんがいうと重みがあるね。」


「そうですか?」


「腹ごしらえもしたし、話の続き聞かせて」


「そうですね、夜も深まってきたので、」







・・・・・・・・



「小学3年の頃、母は突然姿を現しました。

付き合っていた男の人に捨てられたみたいで

僕を返して欲しいと言ってきたようです。」


「苦しいな.....深澤くん、無理に話さなくてもいいよ。

深澤くんの心が悲しみでいっぱいになってる。」


「大丈夫。蓮伽さんいるし(笑)

ここを超えないと、先に進めない気がするから。」


「そっか、もし心がストップを出したら止めるからね」


「はい、続けますね。父と、祖父母はもちろん激怒し反対してくれましたが

父が、一年間、僕と二人で暮らし母親としてきちんと生活することが出来たら

認める。と言い僕と母は暮らし始めました。」


「結果は?」


「ちゃんとしていたのは最初の1ヶ月だけで、新しい男が出来てしまって

何にもしてくれなくなりました。でも、言わなかった。

言ってしまえば母と離れてしまうから。」



涙がこぼれ落ちた。

深澤くんの心の奥底にしまっていた傷ついた気持ちが悲鳴を上げている。



「・・・・蓮伽さん、大丈夫だから、泣かないで。」


「...でも....」


「続けますね、僕は誰にも言わずに過ごしていましたが、父が、二人で暮らすマンションに様子を見に来た日に

母は彼氏を連れ混んでいて、交わってる最中でした。」


「.....修羅場だね。」


「はい、学校から帰ってきたら、父がいて「荷物をまとめなさい」と。

付き合っている男と僕、どちらを選ぶか聞いたら母は男を選んだ。

なので、父のいる実家へ帰る事になりました。」


「.....深澤くん、あと、何回それはあるの?」


「...二回。全部で四回ありました。五回目は、僕自身が断って縁を切りました。」


「......深澤くん......苦しかったね、辛かったね、よく頑張ったね.....

生きていてくれて、ありがとう....私と出会ってくれて・・・本当にありがとう。」




そっと、口づけをした。

愛おしくて、悲しくて涙が溢れる。




「.....だ....から、目の前から急に人が居なくなると、フラッシュバックがあって...

過剰に反応してしまうんです。過去に女性と付き合う時も、

執着と束縛、嫉妬が強くなってしまってうまくいかなくなったり

信用も出来なくて....だから、一生一人で生きていこうと思ってました。」



「私は、深澤くんと出会えてとても幸せだよ。

こんな気持ちにさせてくれて、これからの人生がキラキラするんだって信じてる。

いつも仲良くできるとは限らないし、お互いが素直になったら傷つくことだってあるよ。

それでも、お互い真っすぐ素直に正直に信じあって行きたいって思ってる。

だから、頑張ろう、一緒に。私が深澤くんを癒していくから(笑)」



ずっと、泣いている。

よっぽど、一人で頑張って来たのだろう...


「ありがとう、蓮伽さん。」




でも、私は気になることがあった。





.......彼には、まだ闇がある。

開かない心の個所.....何だろう。

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