第43話 トゥスクルの家系。~出張1日目・満点の星空の下

空には満天の星。私たちは庭先で過ごしていた。


空気も少し寒いくらいになり、焚火がくべられている。







「....気持ち、いいですね。」



「ホントに。」

中居さんは、空を見上げて呟いた。

「昔は、もっときれいだった。・・・岩本さんは気づいていると思うけど、、、」



「....はい。」




深澤くんはなんとなく戸惑っている。

「......蓮伽さん、教えてください。何を感じ、何を知っているんですか?」




「・・・・・ん...あのね、」





「岩本さん、私から説明しますね。」

中居さんがさえぎった。


「深澤さんは『トゥスクル』ご存じですか?この辺の地域にいた霊媒師です。

私は、アイヌのトゥスクルの血筋に生まれました。

先祖は、この辺一帯の精霊や自然を護り、

または争いなどのネガティブな事があった時は、鎮めることが出来る能力を持っていました。

悪い気も操れるので恐れられていましたが、古来から、人々・自然の為に尽くしてきた血筋のものです。」





「!!!ホントですか!『トゥスクル』知っています!僕、大学で異能やシャーマン等の

見えない世界を研究していました。」




深澤くんは、超興奮気味で語っている。




「では、岩本さんが多分普通の人種でないことも....」




「はい、知っています。そして、それは多分ではありませんよ(笑)事実です。」




何かを決めたように、中居さんは話し始めた。



「そうでしたか・・・では話がスムーズにできそうです。

私の祖先から、ここ数年...頻繁に交信がありまして、今、地球が悲鳴をあげている、と。

人のレベルの低下、自然破壊etc...このままだとこの美しい地球が無くなってしまう、と。

特に、人の人としてのレベルの低下を憂いていました。」




うちのばばちゃまと一緒だ。

高次元では、きっと地球の蒼さよりも濁った色に見えるのだろうか。



「うちも、祖母からの強い思いがありました。

今、地球がきっと大変なのだと思います。」



稲垣さんと深澤くん、「普通の人」は神妙な面持ちで聞いている。




「地球が碧くきれいな星として残って行く為に、しばらくは必要のなかった能力をまた使う時が来る、と。

私は救いたい、大切な人と過ごすこの星を。

昔のやり方や霊媒だけでなく、現実的に出来る方法を考え、

仕事を活かすことが出来るのではないかと、で、今回の方法を取り入れました。」




「でも、中居さん、簡単にこんな大きなプロジェクトを一介の社員が

国の補助を巻き込んでやるのは無理があると思うんですよ。

どんな人脈、方法ですか?」



深澤くんは、私をじっと見ている。



「なに?何か気になる?」


「.....いえ、何だか蓮伽さんが遠く感じるなって・・・

話しの内容の次元が違うので(笑)」


「(笑)そう?そんなことないよ。」




「岩本さん、あなたの経歴を失礼ながら調べさせてもらっています。

今のご主人と一緒になる前はとんでもないところで働いていますよね?

私なんか、足元にも及ばない。」



「中居さん、シーっ。個人情報を漏らさないでくださいよ(笑)」



さすがは中居さん、調べていないわけないか、特命だもんね。



もう、こうなると深澤くんの顔色が気になりすぎる。



深澤くんとは、まだ何も話し合っていないし

お互いの事何も知らない。



(深澤くん、ごめんね。徐々に...ね。)



「蓮伽さん....僕は『異能』のことを知っただけなのに、

蓮伽さんを知った気になっていたのかもしれない。

もっと、色んなこと知れますか?知りたいです。」



「深澤くん.....ありがとう。

きっと知れるよ、知ってくれても今のままでいてくれたら嬉しいし。」




でも、不安もある。



(知ってしまったら、受け入れられない事もあるだろうし、

私の元から離れてしまうかもしれないよね。)




「今のままで?当たり前じゃないですか、ずっと一緒ですよ!」



深澤くんは語尾を荒げた。



「あの。」



稲垣さんがおそるおそる声を掛けた。



「えと、話が見えないのですが・・・私は全く何にも見えざるものは見えないし

感じることも出来ないので話が壮大すぎて、着いてゆくのが精いっぱいです(笑)

が、岩本さんと深澤さんの関係って・・・仕事仲間だけではないのでしょうか...?」




「あ、仕事仲間です。」



深澤くんが間髪入れずに答えた。




(深澤くん......)



「でも......僕が片思いしています。会って間もないのですが、

初めて会った時からなので、一目惚れです。

岩本さんには旦那様と娘さんがいらっしゃいますし。

それを僕の力でどうにかすることは難しいのかもしれないけど、

それでも仕事仲間として力になりたいと思っています。」






(....深澤くん.....ありがとう。ホントは私も、大好きだよ。)






あまりにもまっすぐで、深澤くんの言葉が胸をえぐるように痛みを覚えた。







「・・・・・・(笑)あなた達は大丈夫。岩本さんもそれはわかっているのよね。」


「....はい、多分ですけど。」


「まぁ..!多分?・・・・じゃ、岩本さんもあんまりわかっていないのかも(笑)」


「ん??何ですか?含みがありますね(笑)」


「楽しみにしているといいですよ、ふふっ(笑)」



「?」

「...?」



「話しを戻しますね、

国で最重要課題として取り組んでいるものが、環境問題と人材についてです。

トップにいる方が、二人ともこの地方の出身の方でして・・・交流があります。」



「中居さんの家系の方は、代々この地方を治めている方々でして....」



稲垣さんが説明に入ってくれた。



「この地域で「中居」の名を知らない人はおりません。

皆、昔から中居家にお世話になり、助けられ、家を護って来たのです。」




「素晴らしい!トゥスクルやシャーマンと呼ばれる人たちはそうやって、地域に根付き、

持ちつ持たれつで助け合って生きて来たのですね。」



深澤くんは学生のような目をして、話を聞き漏らさないように真剣だ。



「稲垣、大袈裟ですよ。それは、岩本さんの家系も一緒のはず。」



「(笑)うちは....地域で盛大に認めて貰いながら、共に生きて来た感じ。じゃなさそうです。」




みんながびっくりした様子でこちらを見た。

次の言葉を待っている。



「....うちと中居さんの血筋は似ていますが、違います。

それは、ルーツもあると思いますが、

元々、異能使いは呪いなどのネガティブな事もやっていたようです。

なので、地域の人々がもろ手を挙げて受け入れる。ということはなかったと思います。」



「うちも、きっとグレーな部分はあるのでしょうが、

神聖なモノという風に言い伝えられているので

稲垣のような考え方なのかもしれないですね。この地域は。」



「うちのルーツである南の諸島諸々では、

大きなものを抑える際に絶対的な強さが必要、という考えの元、禁じ手も使ったようです。」



「なるほど・・・!知れば知るほど深いですね、ものすごく勉強になります。」

深澤くんは、相変わらず楽しそうに聞いている。




「で、その二人から、相談があったので参加を決めました。

ちょうど、うちの会社の上のほうでも、自然を育むことと人材の育成は重要課題なのでは?

という話が上がってたので、試験的に本社でプロジェクトを開始し、

この地域でも行うことによって、私個人のミッションもいけるのではないかと」



「そういうことだったんですね、よくわかりました。」


「そしたら、偶然にも『異能』持ちが入社してきて.....」


「あ!蓮伽さんですね!」


「なんで、私に異能があることがわかったんですか?」


「......こんなん言い方したら何ですが(笑)」


「・・・・・・何ですか??」




みんなで固唾を飲んで、中居さんを見た。




「.......夢を見ました(笑)」





・・・・・・・・(爆)


一斉にみんなで大爆笑。



「えっ?何で笑う??」


「だって、今更このメンバーで話してたら

それは不思議な事じゃないじゃないですかー!」




深澤くんが突っ込んだ。




「(爆)確かにねー!!」


みんなで、大笑い。




「しかも、今日会ってわかったのだけど。岩本さん、会うたびにパワーが増してる。

自分で気づいてる?」



「え?そうなんですか?全然。でも、理由の一つに中居さんがあると思います。」



「私?......。」



「出張の延長の件で、母に電話した際、

トゥスクルの血筋の人間が私の近くにいると言いました。

母は、とりわけうちの家系でも異能力が高いので

私の意識化を感じとった時に、中居さんを感じたようです。

で、中居さんの能力と私の異能が相性がいいような事を言っていました。

それに関しては、深澤くんも感じ取ったようなことを言ってましたけど...」



「あ!」

稲垣さんが声を上げた。



「さっき、深澤さんオーラが金色とか何とか言ってましたよね?」




「そうなんです、びっくりしたんですけど・・・

蓮伽さんのオーラと中居さんのオーラ...混ざって金色になっていたんです。」




「多分、それだと思う。そこに母が意識を重ねたので感じたのかなと。」



「お母さまって・・・」




「・・・母は、異能持ちであることを忌み、極力力を抑えて生きて来た稀有なタイプです。

祖母は、『娘は修行を積まなくとも最初から異能の能力が高いのに』とぼやいてました(笑)。

修行の類をやらせて、能力のパワーアップさせたがってましたが、

異能に振り回されてきたことに反抗し、普通を大事にしてきた。

ま、うちの血筋の異端児です(笑)。


ですが、祖母が死ぬ前に伝えて来た事があるようで、

私に宿る命が女の子の場合、母よりも能力が高い、ということ。

それは自然界が決めたこと。そして.......」




「そして?」



みんなが一斉に息を飲む。



「【子を宿すことによって、私の異能力も強くなり

娘を抑える事が出来たり、強大なものを得る事が出来る。】

という事だったようです。


母の、教育方針で私から異能を遠ざけて育てて来たようですが、

私が自主的に、その箱を開けたいと望んでしまって。

その時に観念した。と言っていました(笑)


・・・しかも、孫のリョウヒまでが、

異能について知らないはずなのに、

ヒーリングを無意識に行えたり、自然界との一体化して休息をとったり、祖母と会話をしていて(苦笑)

驚きました。(笑)

正しく使えないと、悪いものに取り込まれたりの危険があるので

身を滅ぼしてしまう事にならないように、私が鍛練という修行を行いリョウの力を今は抑えこんでいます。

まだ、幼いので限界突破されると手が付けられない(笑)」





静かにみんなは話しを聞いていた。




中居さんは切なそうな顔をしていた。


きっと、理解できるところがあるのだろう。




深澤くんが、口を開いた。

「僕のようなホントに普通の人間にはわからない、

大変な重圧と辛さがあるのだろうと思います。

できるなら、蓮伽さんのその重い荷物を、半分でも、少しでもいいから持ってあげたい。

それが出来ないから、そばにいて蓮伽さんが幸せで居られるように

僕は支えてあげられたら、そう思っています。

なぜだか、昔から...そう、随分昔から蓮伽さんにそう思っていた気さえします。」




深澤くんは目にいっぱいの涙を溜めてそう話した。




「きっと、その答えはこの出張中に出ると思います。

深澤さん、その気持ちを忘れなければ遂げられますから。」


中居さんは断定した。





「........そうだね、ありがとう..深澤くん。」





「あ、もう一つは何ですか??」


思い出したように稲垣さんが言った。




「あー、そうだったね。もう一つはあっさりで悪いけど、深澤くんの存在だと思う。」



「深澤さん?」


稲垣さんは不思議そうだ。




「ね?そうですよね、中居さん。」


「ふふふっ、そうね。明日からは、岩本さんの異能力..かなり強大になってるはず。

答えは明日以降で(笑)」




ニヤついている深澤くん。




「.....中居さん、なんでそれを知っているんですか??」




どうやら、「異能」について書かれている本に書いてあったらしい。






「中居さんの持っている、特命については?」





すっかり、夜も更けて来た。

母の話しで時間がたってしまった。





「明後日、こちらで待ち合わせをして打ち合わせる事にします。

深澤さんの、力がとても!必要になるので(笑)」



「??」






(そうね、私の異能力の限界・・・どこなんだろう。

深澤くんと交わることでどれくらいの力になるのか....

なってみないとわからないって母ちゃまも言ってた。

一族最大の力になるかもしれないって。ばばちゃま...見守っていてね。)








「わかりました。本日は本当にご馳走様でした。

とても、美味しいお食事でした。

楽しく貴重な時間を過ごさせてもらって・・

ありがとうございました!」





「こちらこそ、とても貴重な時間を過ごさせてもらって・・・

感謝してます!明日、お食事どころが決まってなければこちらお使いください。

責任者に伝えておきます。明日はゆっくりと過ごしてくださいね」





「はい!ありがとうございます。」

「僕も、とても貴重な時間を過ごさせて頂きました。楽しかったです!」




「稲垣、ではお見送りして。」





「はい!ではこちらへ....」





とても、貴重で、楽しい時間を過ごした庭を愛でながら

入り口の門に向かおうとした時だった。




「岩本さん!」


中居さんの声だった。



振り向くと、中居さんが小さな袋を持って寄って来た。




「稲垣、深澤さんお連れして先行って。」

うなづき、先へと歩いて行った。




「これ...今日のお礼。」




小さな袋に小箱と袋が入っていて、リボンがかかっていた。




「可愛い!......ですが・・・これは??」




「ふふふっ、小箱の中身は・・・この地方に伝わるお香のようなもの・・です。

階級の高い者しか、手に入れる事が出来ない貴重なモノです( ´艸`)

とっても、高貴な良い香りがします。

お二人には必要ないかもしれないけど、香りが素敵なので使ってくださいね。

袋は、お部屋に行ってから開けてください☆

サプライズ(笑)」




「え~!!!とても嬉しいです!何から何までありがとうございました!」





会釈をして、中居さんとの場所を後にした。

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