第七章 日常と非日常~年下先輩との日々
第27話 ケガの功名~記憶が呼び合う瞬間《とき》
......今日は、朝から本当に気分を害している。
あんなにドキドキしたことが昨日だったなんて嘘のようだ。
ブツブツ言いながら、駅へと向かった。
・・・・・
電車に乗り、やっと自分の時間であることを実感する。
とても、解放された気分だ。
昨日の事を思い出し、深澤くんを想った。
こんな感覚、、、どれくらいぶりだろう。
ほのかに相手を想う気持ち・・・
でも、深澤くんは14歳も年下。
だいだい、恋愛対象にはならない相手。
出会って、まだ2、3日。
顔を思い浮かべるだけで、胸が苦しいなんて軽すぎる。
一応、まだ人妻なのに。
....そんなことを考えていたら、
いつもは空くはずの駅でいっぱい人が流れ込んできた。
————————
あっという間にギュウギュウに人が詰まり、満員御礼となった。
・・・何にしても、息苦しい。
車内は蒸し暑く、雰囲気もよくない。
・・・・・
・・・・・窓は曇り、線路の音が響く。
(何?この混雑は?)
「・・・・!!」
あ、あの香り。
あの香りが鼻をくすぐった。
(近くに深澤くんがいるの!?それとも、他の何かの香り?)
はやる気持ちと鼓動でまわりの音が遠く感じる。
身動きが取れない中、香りの正体を探していた。
・・・すると、一人挟んだ奥の方で背の高い男性が背を向けた状態で
キョロキョロとしている。
(多分、深澤くんだ!)
真後ろにいるので、気づいてもらえずもどかしさだけが募る。
(気づいて....気づい....)
その時、けたたましい音で電車が急停車した。
みんなが一斉に振られ、重力に引っ張られよろけてしまっている。
(あ、倒れる・・・っ!)
どこを掴むこともできず、隣の人に合わせてよろけてしまった。
——————誰かが私の腕を掴んだ。
(えっ....!だ、誰!怖い!でも....!)
軽くパニック。
目を閉じて身を任せてしまった、その時だった。
「レンゲさん!!!」
(深澤くん!?・・え?・・・・・えっ?え?え?)
フワッと、甘酸っぱい香りに包まれたと同時に
反動で胸の中に納まってしまった。
「深澤くん・・・・・!!!」
「間に合って、良かった!」
眼鏡の奥で優しく微笑み、こちらを見つめている。
「ど、どうしてここに?」
「ふふ(笑)まず、何か言うことは?(笑)」
「あ、(照)ありがとう♡深澤くん」
「いいえ、良かった、倒れないで。」
「重かったでしょ、ゴメンね。」
「.....」
「そこは、そんなことないよ。でしょ(笑)」
「あ、そんなことないですよ(笑)」
二人で思わず微笑む。
電車は止まり、動かないまま。
満員御礼で身動きが取れない。
そして、そんな会話をしている私は.....
深澤くんの胸の中に納まったままだ。
「はっ!あ、あの・・・・」
(ま、まずいよー!ドキドキの激しさがバレる...っ!)
「動かないで、周りに触れてしまうので。」
「ん?当たり前でしょ..(笑)満員なんだから」
「周りに少しでもあなたが触れてしまう事がとても嫌なのでして・・・」
「深澤くん.....?」
「・・・・」
上を向いてしまって表情はわからないが、耳が赤い。
(照れているのかな...)
「それに」
「それに?」
「あんまり動かれると、あの...勝手に反応してしまうので......」
「ん・・・・・・??何が?」
「聞きます?そこ....」
(!?あ、アレ......)
「ご、ごめん.....」
「す、すいません、これは不可抗力なので勘弁を..(笑)」
「そ、そうよね。じゃ、お言葉に甘えて・・」
そう言って、体を預けた。
上を見上げると、少し高い位置に顔が見える。
・・・大きくて黒曜石みたいに深い色をした目。
肌は・・・すべすべで柔らかそうで
口元にほくろがあって、ぽってりした唇。
思わず、見つめていた。
何て異様な光景。
今は電車の中で、次の駅までは徐行運転で行くらしい。
ゆっくりしたペースで、動いている。
そんな中で、こんなドキドキするシチュエーション。
ここ数日が、急に劇的すぎる。
「どうして、こっち見ないの?」
「....どうしてって、察して下さい(笑)あざといなレンゲさん。」
「・・・・・?あざといって、ホントにわからないのに、」
「しょうがないなぁ・・・困りましたね、意外と鈍くて(笑)」
ちょっと、笑って私の頭を胸に近づけた。
「この、状況が落ち着くまでこうやって目を閉じていてください。」
仕方ないので、いう通りに目を閉じた。
(何だろう・・・・この抱かれた感触、覚えがある)
<この感触......初めて、じゃない。何だ?腕が心地よさを覚えてる>
二人はほぼ、同時に何かを感じたようだ。
自然と目があった。
「今、なんか感じた?!」
「今の・・何??」
(もう・・・何??最近おかしい。これ、、何なの???
そうだ。.......母ちゃまに聞いてみたら何かわかるかもしれない。)
<やっぱり、レンゲさんと何かで繋がってるんだ!レンゲさんも何か感じているはず。
異能持ちならきっと、調べるはず。>
互いに、心の整理を抱き合ったまま、している。
<あぁ、キス・・・したい。レンゲさんの唇.....潤いすぎ。>
深澤くんの方は、男子らしい想像で頭がいっぱいだったようだ。
・・・もちろん、私も危うく電車であることを忘れそうになるくらい
本能のままに動きそうになった。
(自分たちだけではない、何かが私たち『二人』のなかには居る、んだ。)
—————電車の混雑は徐々に解消していったので、二人は離れた。
名残惜しそうに、二人とも。
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