第26話 旦那の欲望、私の本音、娘の感情、三人の現実

朝ごはんを準備していると、娘のリョウから爆笑をしながら声を掛けられた。




「おはよ。昨日さ、どんな夢見てたの?」


「おはよ。なんで?」


「だって・・・」


「何?」


「ものすごく、切ない声出してた、よ(笑)」


「え”っ?!」


「あの声は18禁ですな(爆笑)」


「そ、そんなに・・・(;´д`)」


「どんな夢だったの?ママがそういうなら、ホントなんだと思うけど。」


「うん、何か変な夢で・・・リアルなの。五感が反応するっていうか・・・」





昨日の夢について話しながら朝食を食していると、旦那がリビングへとやって来た。


「おはよう。」


「・・・おはようございます。」




旦那は、近づいてくると耳元で呟いた。


「昨日、リョウが隣で寝ているのに何してたの?」


「?何にもしてないけど・・・」


「声がさ、喘いでいてさ。したいんならいいな・・・」


「・・・何の話し?違うから。あなたが想像していることはしていないし、

もしそういう事がしたくても、あなたじゃない。

第一、寝室の外で何やってたの?」


「あ、いや、別に・・・」


「パパ、怖いんだけど(笑)。ママに夜這い?ムリー。」


「(苦笑)お酒飲みながらでも、たまには話そうかなと思って、声掛けようと思ったら

あんなに喘いだ声が聞こえたから。」


「喘いでるとか、娘の前で含み笑いしながら言わないでくれる?不愉快なんだけど。」


「ねぇ、パパ?・・・パパにとって、ママってやりたいだけの相手なの?

家の事、何もやらないで部屋で好きなことやって過ごしてさ、やりたい時だけご機嫌取りに来てー、

働いてるから立場は上だと思ってママと接してる。ママだって働いてるじゃん?

私、絶対パパみたいな人と結婚するの嫌。」



「リョウ........」


旦那はショックだったようで立ちすくんでシュンとしている。





内心、大笑いしている私は非道だろうか。

随分、辛辣しんらつな娘だ。



でも、スッキリした。何一つ間違っていないのだから。



何よりも、下心が嫌すぎる。

家の事は何もせず、自分の事ばかり・・・

虫唾むしずが走る。



早く、色々準備して離婚をせねば。


決意も新たに、の朝だ。




「今、憑依みたいなのを体験しているので、私の本意ではありません。

声は、その時に勝手に出たのであって意志を持って出たのではないの。」




「あ、ママ、もう仕事でしょ?私も学校!!」


「あ、ホントだ!こんな時間~」


「パパ、仕事は?」


「・・・・・・今日は、行かない。」


「(笑)今日は行かないって何?気分の問題なの?」


娘も、あきれている。




「まーいいんじゃない?大人には有休休暇というものがあるのだよ。ほら、遅刻するよ!」


娘を送り出し、出社の支度を始めようと部屋へ戻った。






・・・・・・・







ドアをノックする音がした。




「入っていい?」



旦那だった。



「忙しいんだけど、なに?」


結局、いいよ。と言っていないのに入ってきた。


「さっき、リョウに言われたこと、なんだけど・・・」


「.....」


今その話をする必要があろうか、と思った。

私は、今、仕事へ赴こうとしているのだ。

休みなのは、本人だけだ。

そういうとこ、だ。



「あれは、本人の意志?」


何が言いたいのか。


「当たり前でしょ?私が言わせてるとか悪口でも言っているとでも言いたいの?」


「い、いや・・・あんなこと言うか?と思って。」


「もう、中学生だし、ちゃんと周りの状況とか親がどんな人間とかわかってる。

リョウが悩んでる時には向かいあったりしなくて、楽しい時だけ関わったり、

自分の都合で関わったりしても気づくんだよ。

第一、それって今、仕事行こうとしてるこの時間に言わなければダメな事?」


「俺は仕事休みだから、時間あるし。今日休めば?色々話そうよ...」


「...本当に自分勝手なんだね。仕事、行くので出て行って。」


「・・・・わかった。」





旦那が、ドアノブに手をかけた時に畳みかけるように告げた。





「・・・・もっとさ、相手の気持ちとか、状況とか考えて行動した方がいいと思うよ。

これから先も、そんな感じだと誰も寄り添ってくれないよ?

少なくとも私は、もう無理だって今日つくづく思ったから。」



びっくりした顔で振り返り、

「それ、どういう意味?」

と、一言言った。


「びっくりしてる時点で何もあなたはわかっていなかった、ということだよ。

本当に間に合わなくなるから、出て。」





静かにドアを閉めた。

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