第28話 二人の色々な距離

あの満員電車の日から、少しの時間が過ぎた。







仕事にも慣れ、忙しさと充実感の間で毎日ヘトヘトだ。






——————不思議な事に、あれ以来深澤くんと電車で会うことはなかった。





それでも役職的にもペアで仕事をすることが多いので仕事に出ればだいだい一緒にいた。


ので、


お昼のタイミングも、帰る時間も、ほぼ一緒だ。






二人で業務の進捗状況についての確認をしていると、

久々に中居エリアマネージャーが顔を出した。


「お久しぶりです。業務には慣れましたか?お二人の業務レベルが

素晴らしいと聞いています。

数字にも出ていますし、何よりもオペさんからの評判が良くて

とても助かっています。ありがとうございます!!」



思わぬ、お褒めの言葉をもらった。

隣を見上げると、クールなはずの深澤くんの眼鏡の奥もニヤついている。




「ありがとうございます。」

「ありがとうございます!」





・・・仕事にもだいぶ慣れ、充実感でいっぱいだ。

今は深澤くんとも居られる時間があって楽しく過ごしている。




「ところで。お二人にお願いしたい事があるのですが、時間いいですか?」

中居エリマネの声のトーンが変わった。





二人で、エリマネの後を歩き会議室へ向かった。








————————話の内容は出張だった。





「派遣なのに、出張ってあるんですね!」

少し、明るめの声で深澤くんが耳打ちした。


「ね、びっくりだね。」

気持ちを外に出さないように返した。


「・・・・もちろん行きますよね?」

深澤くんは立ち止まって、答えを待っている。


「・・・・・」


「・・・・・」


「・・・・?」


「・・・・・」


「え?行かないってあります?」


「え?(笑)子どもいるじゃん。家に帰って、調整しないと。それからだよ。」


「お子さん.......。ですよね。奥さんでお母さんですもんね。」


「含みがある言い方だなー。私の答えを待たなくていいじゃん、最悪、深澤くん一人でもいいって言ってたんだから。」


「.....いや、そうですけど.....あの・・・」


「何?」


「旦那さんって、一緒に住んでいるんですよね?」



トンチンカンな質問をしてきた。



「うん、え?どうして?当たり前だよね?」


「お子さんの事はお願いしたらいいじゃないですか?」


「そんな、簡単には行かないのよ(笑)」


「そんな簡単な事ですよ、お母さんばかりが家事をするわけじゃないんだし...」


深澤くんは簡単に、言い放った。



男の人でもこんなに違うもんかと内心ため息をついた。

ま、時代も世代も違うしね。



「色々とあるんだよ、事情もあるの。」


「だけど、、、、」


「ごめん、そこはプライベートだからあんまり・・・・」


「あ、.......ですよね。ごめんなさい、出過ぎたマネでした。」


「ううん、大丈夫。」


「でも、一つだけ。」



結果、まだあきらめていない様子の深澤くん。

割と、へこたれない感じ。




「とりあえず、お昼にでも出ようか」





強制的に、外への移動に成功し食事を終えた頃には

深澤くんは何を言いたいのか忘れていたようだった。

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