第18話 甘酸っぱい香り

でも、この感覚はなんなのだろう。




深澤くんの隣、とても落ち着く。

海に浮かんでいるような、ひだまりでお昼寝しているような、そんな感じ。



鼻をくすぐる香りも気になる。

ほのかに甘酸っぱい香り・・・。






「深澤くん、何かつけてる?香水とか、コロンとか。」


「え”っ!僕、匂いますか?!」


「あ、違う違う!深澤くん、いいニオイするから」


「えー、そんなこと言われたの初めてですよ~何もつけていないです。」


「そうなの??おかしいな...」


「.......。レンゲさんこそ、何かつけてますよね?甘酸っぱい、フレッシュな、フルーティーな..」


「ん?少しコロン程度でつけてるんだけど・・・フローラル系。」


「は、花?!僕の鼻は花ではなくて・・・・」


「え”っ、面白くないんですけど・・・ダジャレ。(笑)」


「えと、ち、違います!」





あわてふためく深澤くんをとても愛おしく感じてしまった。

(何だろう・・・・今日の私、おかしい)





「で、花ではなくて?」


「あんずの様な甘酸っぱい香りがするんです。で、

レンゲさんの香り・・・僕、過去に嗅いだことがあって」


「え?この匂いじゃなくて?」


そう言って、私は化粧ポーチからコロンを取り出した。



大きな体を丸めて、真剣な顔で匂いを嗅いでいる。




「・・・・ワンちゃんみたい(爆笑)」


「えっ!犬ってし、失礼な・・・・(苦笑)」


「あ、ゴメン、ゴメン、冗談。可愛すぎて。」


顔を見上げると、ちょっとだけふてくされた顔をしてこちらを見つめている。




(ま、まずい。グッとくるこの顔....)


「これじゃ、ないんですよね~さっき、阿部ちゃんにも聞いたんですけど」


「え?何を?」


「レンゲさん、甘酸っぱい果物の匂いしない?って」


「その聞き方(笑)、なんか...クサいみたいになってるわ。」


「大丈夫。なってないから。」


見上げると、無機質な眼鏡の奥で優しい顔をして微笑んでいる。




この懐かしい感じ、初めて会った気がしない空気感、記憶の奥をくすぐる香り...




深澤舞翔・・・誰...?




なんとなく、ぼやけて歩いていると、



「あの・・・・おかしなこと言っていいですか?」




「どうぞ(笑)、深澤くん割とね、最初から何となくおかしなこと言ってる(笑)」


「あ、え?そんな(笑)変人扱いしないでくださいよ、自覚あるけど(笑)」


「自覚、あるんだ(笑)」


「あります、思いっきり(笑)」


「(笑)」




豪快に笑う深澤くん。

まっすぐ私の目を見て話すので、ドキドキしすぎて、困る。

(・・・・・ドキドキ?...やだ、ワタシ会ったばかりのかなり年下の子なのに)→子、と言っても36歳なのでまあまあ中年。



「で、何でしょうか?聞きたい事、とは。」


「あ、そうそう。・・・・寒いですか?」


「(笑)いや、寒くないですよ、急にどうしました?」


「さっき、売店が目に入ったので、飲み物買ってこようかと思って。座って話してもいいですか?」


「あーそういうことですね。いいですよ、お金...」


お財布を出そうとすると、大きな手が遮る。


「今日はひとまず、僕が誘ったので。」


「え、あ....ありが・・・・」


お礼を全部聞く前に、買いに走ってしまった。





(・・・・・・・キリン(笑))

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