第16話 不思議空間、オリエンテーション。

そんなに、堂々としっかりと言われても...少し置いて、


「あ、えっ、おはようございます、えっと...どうぞ」


第一声目に思わずたじろいでしまった。







「ありがとうございます。みなさんもおはようございます。」




「あ、おはようございます。」



何ともいえない空気の中、始業時間となった。








(.......それにしても、この何とも言えない空気感は何なのだろうか。

初めて会った感じではなく、なじむ重さの心地のいい空気。このオーラの色。

そして、吸い込まれそうなほどの漆黒の瞳...)





心が柔らかくなる安心感。

今までに感じたことのない感覚にずっと包まれている。








——————彼の名前は、『深澤舞翔(フカザワマイト)』35歳。

背が180cm、70kg、らしい。

目が大きくて、ビー玉みたいだが、冷酷色した無機質なメガネをかけている。

オーラの色は見たことのない綺麗な杏色。ラメを施したようにキラキラしていた。





みんなは気づかないのだろうか、この独特のオーラの色。

(あ、気づかないのか、他の人は。)






そして、座ってからも穏やかな顔で真っすぐに私を見ている。

(吸い込まれそうな、深い黒..キレイ..)






(やっぱり、知り合い..?どこかで会ったかな..)







そんなことを考えていると、エリマネの中居さんが来た。





「おはようございます、リーダー全員揃いましたね!

では、まず今日一日の流れと明日からの予定です、ご確認を。

今日の皆さんの様子を拝見させて頂いて、リーダーを束ねるボスリーダーを決めさせて頂きます。

宜しくお願い致します。」







予定表等の一式を配りながら、手際よく説明をしていくエリマネの中居さん。





一通り、手順を確認していき、コミュニケーション力を試されているのだろうか、

自己紹介タイムを設けられてしまった。







「一番上座にいるので、岩本さんからスピーチお願いしてもいいですか?」


杏色オーラの深澤舞翔が言葉を発した。



(.....深澤ぁ....自分からやれって。絡んでくるなって。)






「あ、ワタシ??・・でもいいですけど、、、

昨日こちら側の3人は自己紹介込みで少しスピーチしちゃったので、逆に深澤さんからどうでしょう?」

(我ながら、ナイスな切り返し。)






「...そうですか、そしたら、僕からやります!」



(素直で可愛いわ(笑)、良かった、とりあえず一番は免れた。)



「では・・・」


そう言って、立ち上がった。






(え?立つの...?)








「改めまして、深澤舞翔です。字は、舞妓さんの『舞』に空を翔ける『翔』です。」

(分かりづら~)







「・・・岩本さん、僕の名前の説明、わかりづらいですか?」





『...!?』



みんなが一斉に私を見た。





「ふっかさん~、岩本さん何も言ってないですよ~」


けだるい感じで、阿部さんが言葉をかけた。




(ふ、ふっかさん?てかなんで、わかったの!!)

頭の中が、ぐるぐるとしてきた。



残りの人も、少し混乱気味だ。




「なんでしょう・・・・岩本さんの声が聞こえた気がして。

偶然ですよ、あてずっぽう。当たっちゃったかな、もしかして。」




(当たっちゃったじゃないよ、彼、何なの?!)




「あ、後でお話ししますが、阿部と深澤さんは少しだけ知り合いです。」

阿部さんが説明に入った。





あーそれでー・・・という感じでみんなが納得した。




深澤さんを皮切りに、みんなが和やかに自己紹介をしていった。


阿部さんは深澤さんと前回の職場で同僚だったらしく、ゲームが好きすぎて派遣とゲーム配信の収入で暮らしている、

渡辺さんは既婚者で義理父の経営している会社を引き継ぐための帝王学を学ぶために派遣としての武者修行、

佐久間さんは夢があり叶えるべく、働きやすさで派遣ということだった。



そして、深澤さんは

”家庭の事情でひとまずお金が必要”との事だった。



みんな共通しているのは「時給が高いから」だった。





せっかくなので、フランクな呼び名にしようと阿部さんが言い出した。

によって、以下に決まった。



阿部さんは、阿部ちゃん。(当然のごとく、むしろこれしかない。)

渡辺さんは、ナベさん。 (これも、必然。)

佐久間さんは、さっくん。(若いから君で呼ばれてしまった。パフォーマーで、ニックネームなので、ってことで。)

深澤さんは、ふっかさん。(これ以外の方が違和感がある。)



で、私はいわもっちゃん。とでも呼ばれるのかと思ったら




”レンゲさん”




だった。




「え?なんで、なんかひねってるの?レンカ、とかいわもっさんとか、いわもっちゃんで良くないですか?」




言い出したのは、またもや深澤さんだった。




みんなも、同じことを言いたげだった。



「なんとなく、なんとなくですけど、下の名前利用の方がいい気がして.....」



「ふっかさん、カンが凄く強くて、わりと当たったりすんすよね~(笑)。」

阿部さんはまるで、子分のようだ。





(.........なんだろう...この感じ、まただ。心の奥にある大切な箱のカギが開いたカンジ..)





時折、鼻をくすぐるフレッシュな甘酸っぱい香りが心の奥底へと私を誘う。

(この、香りもどこで...いったい。)




「え、岩本さんダメですか?」




深澤さんの一言で我に返ると、

澄んだまんまるい瞳で私をのぞき込んでいた。








ダメだ......どうしても、くすぐる。

深澤さんが、私を。

調子が狂ってしまう。





「いや・・・・別に構わないですよ、わかれば(笑)」





「では、これでオリエンテーリング終わりましょう。もうお昼です。」

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