第五章 色、香り、記憶の奥

第15話 あんず色の彼

珍しく、疲れが取れない朝だ。



・・・・就寝中に記憶の整理が上手くできていなかったのが理由なのだろうか。

行ったことのない場所やかなり前の時代の景色や知らない顔など、

見たことのない残像が夢に出てきて、ぐっすりと寝付けなかった。




多分これが、原因だ。


気分が晴れない。











今日は昨日居なかった、リーダーの残り二人と顔合わせの日。








切り替えて、仕事へ。













・・・・・15階までのエレベーターは耳が少しボーンとするが

階数が上がるに連れて、眼下に緑が広がるのは心地が良い。









就業時間の定時時刻まで少し時間があるので、廊下も静まり返っている。







——―————————こんなに空は青く澄み渡り、緑も綺麗な惑星ほしなのに

別な空間に感覚を合わせると、街並みが薄暗い灰色をしている。

みんな、何かに追われ疲れているのだ。




(自分に出来る事・・・)





「おはようございます、岩本さん。」


エリアマネージャーの中居さんから、声をかけながらやって来た。


「おはようございます、中居さん。」


「今日は二日目ですね、いよいよ全員リーダーが揃います。

宜しくお願いしますね。」


「緊張しますが、頑張ります。」


「さ、中へ」


中居さんに促され、中に入った。






席に着き、始業の準備をしていると続々と人が増え始めた。


「おはようございます、岩本さん。」

「おはようございまーす」


昨日、一緒だった二人も顔を揃えた。



「......おはようございます..。」


少し、控えめな低めの声で挨拶があり、

三人でそちらを見ると大柄な男の人が立っていた。


「おはようございます。」


三人の声が重なり、続けて私が話しかけた。


「一足早く、研修に来られていた...」


「あ、はい”阿部涼哉(アベリョウヤ)”と申します。」


「阿部さん、ですね。岩本蓮伽と申します、宜しくお願い致します。」


続いて、昨日のメンバーも挨拶して少し場が和んだ。


何となく、会話をしながらも始業時間が迫り、

サブリーダーのメンバー達も出勤し始め、一気に入り口周辺から中に入ってきた。




・・・・・・何気なく、その4.5人のメンバーに目をやると、

一人だけ、息をするのも忘れてしまう程、目を離すことが出来ない少し背の高い男の人が混じっていた。








——―————その人は、キラキラとしていた。優しくて柔らかい杏色あんずいろしたオーラをまとって。






こちらに向かって、歩いて来る。

彼の瞳は私を捉えている。





(会った事、ある.....気が。どこでだろう・・・・・初めまして...??

私、あのを知っている。)







杏色の彼は、私の席の横に止まって第一声目を発した。





「おはようございます。前の席、いいですか?」

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