第3話
あれはいつだったか、同期の聡美と居酒屋のカウンターで呑みながら職場の愚痴をこぼしていたときだ。
いい具合に酔いも回って、少し大きくなった声で店員さんに絡みつつもストレス発散とばかりに上司の悪口を散々罵っていた。
「もうほんとやんなるよ! 課長のくせにミスばっかでさ、おまけに小太りのアニメ好きだよ? 上司でアニオタとかあり得なくない!?」
「確かにそれはやだね。こないだ異動してきた課長でしょ? せめて仕事くらい出来てよって感じだね」
「まぁ、この時期に異動だからわりと酷いミスやらかしたんだろうけど、その点、菜緒んとこの課長さんイケメンで優しくて仕事も出来て、ほんと羨ましすぎるわ~」
私はモロキュウの味噌をアテにしながら、熱燗の日本酒をちょびちょび口にした。
「そんなことないって、うちの課長なんてちょっと顔がよくて仕事出来るからって、女子社員にチヤホヤされて自惚れてるだけなんだから。
愛想笑いしてても目が笑ってないのよ、目が。
おまけに私が挨拶しても、冷たーい目で見返すだけでさ。
なんなのよそのギャップは!
あーいう人って腹ん中ドス黒だよ絶対。じゃなきゃあの歳で課長なんかなれるはずがないよ」
「まぁ、例えそーだとしても登りつめるだけの器量があるってことでしょ。いいじゃんギャップ、萌えるわ〜。
それにひきかえうちの課長なんか用もないのに私の机の上にフィギュア置いて、アニメおススメしてくるんだよ。もうドン引くレベル」
「それはさすがに引くね…。けどまぁアニオタもたいがいだけど、愛想笑いの裏の顔がどんなものか分かんない人よりはマシだと思うよ」
「愛想笑いでもあんなイケメンと仕事できるなら私は喜んで付き従うわ。菜緒は嬉しくないわけ? 社内でもダントツ人気の堤課長が近くにいて」
「むしろやりにくくて仕方ない。みんな色目使って気に入られようとしてさ、仕事しろよ仕事を。イケメンだからってそれがなんなのさ! って。そう思わない? おにーさん」
カウンター越しの店員さんは困った顔で苦笑いを返してくれる。
「男なら中身で勝負でしょ!」
「へぇ~そういうもんか」
え??
頭の上から聞き覚えのある低い声がして、二人してゆ〜っくり振り返ると、渦中の堤課長がニコニコ顔で立っていた。
ぎゃーーーーーっ!!!!
「かかかかかか課長?! ど、どーしてここに?!」
「呑みに来たんだよ。君たちも来てたんだ。奇遇だね。なんの話してたのかな? ん?」
いつから居てたの!?話聞いてた!?
あ、目の奥が笑ってない…。
恐ろしいくらいのニコニコ顔で肩を掴まれ話しかけられた。
「いや…あの…仕事は楽しいな〜って…」
「そっか、そうだよね。周りのみんなに仕事しろって思ってるくらいだもんね。それじゃ坂井くん、君には明日から社畜となってバリバリ働いてもらおうかな」
やっぱり聞いてた!!
「え…いや…は…い…」
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