第41話
いつも細く見えていたけど、男性らしい少し骨張った大きな手がそっと私の頬を何度も撫でる。
己より身分の高い
それは。
「————————…貴女に」
その声の低さが甘い傷となって耳に残る。
信じられなくて心の臓の音が聞こえてしまいそうなほどに鼓動が高鳴る。
「…わた…し…?」
絞り出した声に、久保様は頷いて優しく笑ってくれた。
それに、涙が込み上げる。
「…それなのに、待ち望んだ祝言の日に側室をとれだなんて言わないでください。断じてお断りします。そんなもの。…貴女に言われると…とても辛い」
待ち望んだ、祝言。
その言葉に、思わず両手で口元を覆って涙を堪らえる。
「…真、ですか…?」
それに、彼は少し辛そうな表情で頷いてくれる。
「…許してください。きちんと私が伝えなかったから。どれだけ…不安にさせてしまっていたでしょうか」
優しい言葉に、ただ涙を堪えて首を横に振る。
今日の日を指折り数えた日々を思い出す。
貴方様を、想って。
薩摩に戻ったら久保様の妻になれると思うと。
あの頃から…どうしてか、嬉しかったから。
でも。
「…この婚儀…仕方なくだったのでは…?貴方様は…ただ…父上の
仕方ないと、自分に言い聞かせていた。
私の、独りよがりの
久保様は島津のために、御家のために私と…。
いつしか堪えきれず溢れる涙が止まらなくなって俯いた瞬間。
頬にあった手が頭にまわり、引き寄せられた。
暫く時が止まったような感じがして、花のような柔らかな香りが鼻を擽る。
「…確かに、この婚儀は島津のこれからの為に義父上がお決めになったこと。貴女が言うように、全てがこの肩にかかるのも事実。そして当主の座なんて私には務まらないほどなのも事実です。…正直本当に恐ろしい。…気が狂いそうなほどに」
その声が頭の上から聞こえてきて、久保様の腕の中にいるということを漸く理解する。
そしてそれと同時に息が止まりそうなほど胸の鼓動が飛び跳ねた。
「…ですが…」
ゆっくりと身体を離すと、久保様は泣いて俯く私の顔を覗き込んだ。
「…共に歩んでくれるのが貴女だと思うと心が楽になって…
いつしかこの日を待ち侘びていました」
彼が笑って言ったその言葉に、ただ涙が散る。
「…隣に、ずっといてくれるのでしょう?」
…その言葉が、まるで夢のようで。
ただ頷くことしかできないでいると、久保様は戯けたように笑った。
「よかった…。それなら…宗家の家督でも何でも継いでみせましょう。
もう何も怖くはない…」
あぁ、私は。
恋をしているのだと。
漸く自覚する。
強くて優しい…この人に。
「…はい…っ」
いろいろと伝えたいのに、それしか言葉にできなくて。
堪えていたものがただ涙となり溢れ出す。
ぼろぼろと流れる涙を、久保様は微笑んで何の躊躇いもなくその指先で拭ってくれた。
「貴女と
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