第2話

『全て終わりました。御方様。



若のお望み通り…これでもう島津宗家17代当主だったという事実は、後世では消えて無くなります。



その御報告も兼ねて…



———————若のもとへ参ります』









あの日の親匡の言葉が、蘇る。     





そう私を訪ねて来たその日の決意の表情は、美しく。







『…なりません。殉死は禁ずると、側近の貴方達にはいつもきつく命じておられたはずですよ?


だからきっと、お望みではありません』






そう言った私に、薄く浮かべた笑みがこの目に焼き付いている。









『…それでも…



例え何があってもただお傍にいると…



—————心に決めておりましたので』













「…………夫は自分に何かあったとしても、側近達には殉死を禁じておられました。



それでも…親匡は殉ずる道を選びました」







あの日を思い出しながら、晴れ渡る春の空を見上げる。






それと同時に無意識に、頬に涙が零れ落ちた。








親匡が最期に遺した言葉を…思い出して。


















『御二人の約束が終わりなく叶い続けること…



俺のこの命と引換に…ただ心から願っています』






















「約束、ですか…?」








そっと尋ねた春に、頷く。









「えぇ。祝言を挙げ、夫婦めおととなった春の日に…私と夫は何よりも固く約束したのです」










その瞬間に爛漫に咲き誇った桜が、風に乗って舞う。










「あの日は今日のような…桜の盛りの日でした」










あの日が、昨日のことのように思い出されて小さく微笑んだ。












「あの約束だけを心のよすがに…





———————————私は今、生きています」














桜を見ると、思い出す。









貴方様を。



























『————————————亀寿』



























ふと呼ばれた気がして、顔を上げる。








だがそこに、いつも捜している愛しいあの姿はなくて。







でも…会いたくて堪らなくて。







思わずただ、その名を呼んだ。

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