第99話

適切な処置のおかげで語が落ち着きを取り戻した時には、空が薄紫色に染まっていた。


やがて太陽も顔を見せるに違いない。目視をする限り、本日も私が厭いな快晴の様だった。




「喘息の発作ですね。大分酷くなっておられます、無理な運動でもしましたか?」


「「………。」」



疲労が溜まり、眠りへと落ちてしまった語の表情は相変わらず苦しそうに歪んでいる。



彼がひとまず落ち着いてくれた事に安心したのは私達だけはない。


こうして、診断結果を報告してくれている医者も、今初めて表情を柔らかくした。



無理な運動に心当たりがない訳がなかった。


躾と云う名の罰。私の頭にも、そして恐らく綴の頭にも、その事が過っていた。




「御二人は重々承知の事かと思いますが、語様は生まれ付き大変お身体が虚弱でございます。このまま持病の喘息が酷くなられると当然ながら命にも関わってきます。」


「……。」


「三人のみでの生活でもしも語様が発作を起こした場合は、すぐに語様は本家へ連れ帰るよう不動様から申し付けられております。」


「……。」


「こればかりは不動様直々のご命令ですので、私は逆らえません。語様は不動財閥の本家へ連れ帰らさせて頂きます。」


「……。」


「宜しいですね?」


「……。」



まだ私の手を握って離さない彼の表情が伺えない。


医者の話に相槌を打つどころか、うんともすんとも言わず貌を俯かせている綴。その姿は、語と同じくらい痛々しく映った。

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