第98話

息を整える暇もなく、語の診察が始まった。


聴診器を当てられている間も藻掻いている彼が横たわるベッドのシーツは、ぐしゃぐしゃの皺が沢山できている。



語が呼吸する度にヒューヒューゼーゼーと音が鳴る。


それは、少し離れて見守っている私達の耳にまで届く程に大きかった。




「夜ちゃん。」



すぐ隣に立っている彼が、私の服の袖を力なく摘まんでいる。




「どうしたの?」


「手…握ってて欲しいの。」



弱々しく吐かれた我が儘。


一緒に時間を重ねて来たからこそ相手の心情を理解できてしまう私は、その我が儘を拒否する事なんてできやしなかった。



冷たい綴の手をそっと握って、語へと視線を戻す。




「お祖父様、怒るかな。」


「分からない。でも、あの方が一番懸念していた最悪の事態が起こっているのだけは間違いないと想う。」


「……っっ…。」


「兎に角、お医者様の診断を待とう。」



絡まっている指先まで、酷く冷たい。


ただ見守って待つ事しかできないこの時間が、果てしなく、果てしなく、長く感じた。

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