第97話

不動家お抱えで、語の担当である医者がマンションに到着したのは明朝だった。



「語様は?」


「こちらです。」



額に汗して息を荒げている医師の様子は、急いで駆け付けてくれた何よりの証拠だった。


すっかり顔馴染みとなっている相手を引き連れて案内した先は、いつも三人で就寝している部屋とは別の部屋。




「ハァ…ハァ…ゲホッ…ゲホッ…。」



部屋に設けられたベッドの上。


そこでは、綺麗な貌を蒼白させた語が、余りの辛さにたうち回っていた。




「語、語、大丈夫だよ。僕がいるよ。」



苦しんでいる弟の手を握って言葉を掛け続けてはいるものの、綴は今にも大粒の涙を流してしまいそうだ。




「綴、お医者様がいらしたよ。」



相当語の様態が心配だったのだろう。


私が名前を呼んで初めて、医者の存在に気付いた仕草を見せた彼の表情は既に疲弊し切っていた。

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