第89話

温かいココアの甘さが、口いっぱいに広がった。


語が頼んだからか、語好みの糖度が高い状態で用意されているココアが咽頭痛の辛さも解してくれる。




「そういえば、あの日も快晴だったね。」


「そうなの。」



私の隣で黙々とサンドウィッチを胃袋に収めながら、相槌を打っている語。



だとしら、私は晴れの日が厭いだ。


父の手が離れたあの日。この双子への従順が義務付けられたあの日。家族を失ったあの日。



花見をしようねと母と約束をしていたのに、結局叶わなかった。


だから私は、語が好きなこの天気が酷く厭い。




「夜と一緒の生活が始まって、お花が咲いたみたいに明るくなったの。」


「そっか。」



こんな私との生活の何が愉快なのか。どうしてこんなに飽きないのか、不思議で堪らない。


気付けばサンドウィッチを完食した語が、私の肩へ頬をくっ付けた。



壁に掛かる大きなテレビの画面に反射している私達の姿は、確かに恋人だと云われれば納得してしまいそうだった。




「だから僕は、僕の人生のお花である夜を横取りするような塵が現れたら、躊躇なく殺すんだぁ。」


「……え。」



暗い画面越しに、私と語の視線が絡む。


表情が強張っている私とは対照的に、男はとても幸せそうに口角を持ち上げている。

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