第80話

講義の最中、居眠りに耽る綴の目を盗んだ語からの口付けを反射的に受け入れた。



それが原因だろうか?


否、あの行為で憤慨したのならば、躾の際に語がいた事が不可解になる。



それじゃあ、一人でお手洗いに行ったからだろうか?


否、あれもたかだか数分の話だし、それ以前に私は手洗いに行く許可をわざわざ二人から得た。



ならばやはり、物好きなあの八神藤火と云う男と話しているのが露呈したのだろうか?


その線が一番濃厚だ。けれど、決定打に欠ける事柄が余りにも多いのだ。




八神君の事で憤慨したのなら、あの双子ならばこれ見よがしに彼の名前を出して彼の家を潰すだの、彼を大学から追い出すだの、私に脅しをかけるはずなのだ。


けれど、昨日二人は脅迫するどころか八神君の名前すら出さなかった。


それに、綴に引き摺られて正門に行った時、語も既に憤慨していた。



仮に綴が私と八神君が接触した事に憤っていたとしても、あの場にいなかった語には私と八神君の接触に気づく術などないはずなのだ。




判然としない昨日の躾の原因に、胃がムカムカして吐き気を及ぼす。




「ゲホッ…ゲホッ…。」




回想するだけ不毛なのかもしれない。


何があの気分屋な双子の癪に障ったのかなんて、考えた所で私が分かるはずがない。



分かっていたら、躾なんてされずに済んでいたのだから。

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