第81話

反省して同じ過ちを繰り返さぬように修正したいのに、そのしようがない現実が悔しくてもどかしくて自然と唇を噛み締めていた。



ポタ…ポタッ…


シンクに落ちた真っ赤な雫を目にして初めて、唇から出血している事を覚る。




「八神君との接触は、まだ二人に勘付かれていないと云う認識で良いのかな。」




躾が始まって終わるまで、一度も彼の名前が提示されなかったと云う事はそう云う事なのだと想う。


そうなると、廊下で擦れ違っただけの人を咄嗟に装った八神君の機転の速さが功を奏した事になる。




あの人とはもう二度と関わらない様に用心しよう。心の中で強い決意を立てる。



隙を作らないで生きているつもりだけれど、八神君はその隙を容易に突いてきた。


たった一言、二言会話しただけなのに、あらぬ疑いを双子に掛けられては堪らない。



大学卒業と云う大きな目的を剥奪される可能性だって十二分にあり得る。




「それに……。」



心の声が喉から出掛かって、慌てて口許を手で覆った。


口腔内に広がる鉄の味が不愉快さを増長させるせいで、眉間に力が入る。

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