第74話

息を呑んだ。



興奮を隠す事なく露わにしている綴の欲望に対してではない。


この男が、本息で語からの奇妙な提案に乗っかる気でいる事に、喉がゴクリと鳴ったのだ。




あんな好奇心だけが勝った様な提案を承諾するだなんて、余りにも軽率過ぎやしないか。




「ほらぁ、夜ちゃんでこんなに熱くなってるんだよ?いい加減、自主的に僕達を慰める事も覚えてよ。」


「…っっ……。」



連続する快楽で震えていた私の手を優しく取り、掌に自らの熱を撫で付けた彼の瞼が伏せられ、長い睫毛が揺れる。


綴が感じているのだと気づいたのは、掌で熱い液体がべったりと付着した感覚が伝ったからだ。




望んでもいないのに綴の欲望を慰めさせられ。


望んでもいないのに語の欲望に貫かれ。



途方もない屈辱感になぶられる。




「いけない、うっかり絶頂に達してしまいそうだったの。」


“夜ちゃん冷え性だから、お手てが冷たくて気持ち良いんだもん”




これ以上の地獄なんてある訳がない。


これ以上に惨めな事なんてある訳がない。



どうせなら絶頂を迎えてしまえば良かったのに。そんな希望がフワッと浮くけれど、私が希望を抱いた傍からそれが蹂躙される事は承知している。

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