第66話

すっかり帰宅する場所となったマンションの前。車は緩やかに停車した。


コンシェルジュからの「お帰りなさいませ」の言葉を鮮やかに無視し、ロビーを突っ切った両者によってエレベーターに引き摺り込まれる。




綴の指圧で点灯したのは、最上階。


それから上昇を開始したエレベーターと云う名の箱の中は、偉く静かでそれがひたすらに重苦しい。



じたばたしてどうにか二人の手から放れ、適当な階のボタンを押し、扉が開いた途端に逃亡を謀れば良い。きっとそんな提案をしてくる人もいるだろう。


しかしそんなのは悪足掻きでしかないし、更には文字通り無謀な物だ。




この二人がみすみす私を逃す可能性は皆無。


はっきりとそう断言できる。




「……。」


「……。」



シンクロする様に口を結んで、薄っすらと笑みだけを貼り付けている綴と語。



この二人専用エレベーターのおかげで、他の階で停止する事なくぐんぐんと最上階目掛けて上昇を続ける。


扉の上に設けられた階数を示す電子板の数字が一つ増えるごとに、私の緊張と恐怖も増幅していった。

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