第67話

普段お喋りだからこそ、口を開かない二人が恐い。


普段私には可憐な笑みしか見せないからこそ、偽りの笑みを湛えている二人が恐い。





「………。」



息をするのも憚られる様な空気。


これを経験したのは、私でも数え切れるくらいだった。




「ごめん…なさい。」



空気に耐えられなくなったのは、無論私だった。


自らに鞭を打ちどうにか口を割って声を零す。




「………。」


「………。」



しかしながら、何の反応も返ってはきてくれない。


四つの視線だけがグサグサと私を刺して貫くだけ。




「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさ…「夜、一体何回云うつもり?」」



やっと自分の声が遮断された。


咄嗟に視線を伸ばした先には、変わらない表情を浮かべたままの語が腕を組んで壁に凭れている。




「ごめんなさい。」



懲りる事なく同じ言葉を繰り返す。


正確に云うと、その単語以外の言葉が恐怖に支配された私の脳みそでは浮かばなかった。



微かに。


本当に微かに、語が笑みを深くした気がした。


それだけで、絶望の中に僅かな希望の光が射し込む。

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